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(概要 −その2−) NEDOワシントン事務所 全米科学アカデミー(National Academies of Science = NAS)の全米研究委員会(National Research Council = NRC)が今年9月に発表した『大きさの問題:国家ナノテクノロジー・イニシアティブの3年毎レビュー(A Matter of Size: Triennial Review of the National Nanotechnology Initiative:以下「レビュー」という)』は、「21世紀ナノテクノロジー研究開発法(21st Century Nanotechnology Research and Development Act:以下「ナノテク法」という)」に盛り込まれた、外部機関による3年毎のレビューを義務付ける規定に従って策定された報告書である。 NRCの「レビュー」では、3年毎に見直しの対象となる事項(注:1)を、国家ナノテクノロジー・イニシアティブの見直し(第一章:前回レポートで概説);トラッキングとベンチマークの進捗状況(第二章);経済的影響(第三章)に整理分類して評価しているほか、第一回目レビューの一環として、レスポンシブルなナノテクノロジー開発を保証する基準・ガイドライン・戦略の必要性を査定する一回限りの調査研究(第四章)、および、分子自己組織形成の技術的可能性を判定する一回限りの調査研究(第五章)も実施している。ここでは、第二章から第五章までを概説する。
科学技術のベンチマーキングでは、客観的な国際的査定を行うために必要なデータ収集や数量的分析が少なからぬ課題を提示することになるが、これはナノテクノロジーにも当てはまる事実である。NNIレビュー委員会(Committee to Review the National Nanotechnology Initiative)では、各国のナノテクノロジー研究開発(R&D)支援状況を評価する際に利用される主要因子の一つが官民の投資であるとしながらも、各国政府の予算編成や支出計算方法が異なるために、これらの比較が容易ではないことを強調している。とはいえ NNIレビュー委員会は、投資やインフラストラクチャー等のインプット要素と、科学出版物や特許といったアウトプット指標をベンチマーク情報として収集・分析し、米国が現時点ではナノテクノロジーR&Dにおいてリーダー的存在であること、その一方で、激しい国際競争に直面していることを結論としてあげている。 政府投資では、日本や欧州連合のナノスケールR&D予算が米国の現行予算(年間10億ドル)に匹敵するほか、多数の諸国から新イニシアティブ立上げの報告が入ってきている。このため、大統領の科学技術諮問委員会(President's Committee of Advisors on Science and Technology = PCAST)では科学技術政策研究所(Science and Technology Policy Institute)に、米国政府と外国政府の予算を比較評価する調査研究を実施するよう依頼したところである。一方、ナノテクノロジー関連企業へのベンチャーキャピタル投資に関するデータ(注:2)は、米国のベンチャーキャピタル産業が他国よりも遙かに発達していることを示し、米国のリーダーシップが今後数年間続く(注:3)ことを示唆している。 ナノテクノロジー投資発のアウトプット指標で評価可能なものが、科学出版物と特許発行数の動向であるが、@ナノテクノジーが未だ発見・開発の初期段階にあり;A各国のナノテクノロジー定義の相違や報告データの一貫性欠如が指標の追跡調査を複雑化させていることが、アウトプットのベンチマークを非常に難しいものにしている。米国内に限ってみても、NNI投資から生まれた出版物や特許に関するデータの収集は、この種のデータの追跡・収集を担当する中心的機関が存在しない為に極めて困難であるという。NNIレビュー委員会では、ナノテクノロジーR&D投資、結果として生まれるイノベーション、および、ナノテクノロジーの営利開発を示す優れた相対的指標が存在しないことを指摘する一方で、既存データから、ナノスケール研究への投資とイノベーションが世界的に増長していることは明白であると結論づけている。また、米国がナノテクノロジー関係出版物の数(注:4)や特許数では依然として世界トップの地位を保ってはいるものの、他諸国がこのギャップを急速に縮めつつあるという警告を発している。 《提言および提案》
ナノテクノロジーの経済影響を追跡するために必要なデータや指標が、種類・量・質の面で大幅に不足しているほか、ナノテクノロジーの経済影響を信頼できるデータや厳密な実証枠組みに基づいて評価するというより、仮説や推量に基づいて予測する傾向にある。ナノテクノロジーは未だ発見・開発の初期段階にあるため、現時点でこの技術の経済的影響を測定することは時期早尚であるうえ、将来これを分析するとしても、経済指標…ナノテクノロジー開発の結果生まれた雇用や被雇用者等…の厳密な解析を助長するデータが収集され、メトリクスが策定されない限りは、経済影響の分析は困難である。NNIレビュー委員会は、高質なデータを将来の経済影響評価に利用する意向であるならば、方法論や新たな指標を策定する可能性について調査する必要があると指摘している。また、初期段階にあるとはいえ、ナノテクノロジーを商業化する活動の為の指標(注:5)策定を今開始して、こうした活動に関するデータベースを維持していくことが重要であると明言している。 《提言》
NNIレビュー委員会の見解では、レスポンシブルなナノテクノロジー開発とは、ナノテクノロジーのもたらすプラスの貢献を最大限に活用し、マイナスの影響を最小限に抑えるというバランスのとれた努力をさす。従って、技術の応用と潜在的影響の双方が検討されねばならないとしている。NNIのプログラム構成分野(Program Component Area)の一つである社会的局面は、(1)ナノテクノロジー開発のもたらす環境・衛生・安全面(environmental, health and safety = EHS)の影響および付随するリスクの査定評価;(2)教材や学部課程、技術教育や市民啓蒙といった教育関連活動;(3)ナノテクノロジーが社会にもたらす影響の確認および数量化を目的とする研究、という3つのサブトピックを網羅しているが、NNIレビュー委員会のこの分析では現在のEHS研究に焦点をあてている。 レスポンシブルなナノテクノロジー開発の調査研究は今回一回限りの実施であるため、NNIレビュー委員会では、国家ナノテクノロジー諮問委員会(National Nanotechnology Advisory Panel)やNSET小委員会のナノテクノロジーの環境・衛生影響に関する作業部会(Nanotechnology Environmental and Health Implications Working Group = NEHI作業部会)および環境保護庁(EPA)といった政府機関、ウッドローウィルソン国際センターの新興ナノテクノロジー・プロジェクト(Projects on Emerging Nanotechnologies)や国際生命科学協会(International Life Sciences Institute)といった非営利団体、および、英国の王立協会/王立工学アカデミー(Royal Society and Royal Academy of Engineering)等の近年のEHS関連活動や研究報告について言及している。 NNIレビュー委員会は、こうした米国内外の活動や研究報告の考察によって、ナノテクノロジーEHS影響に関する情報やデータや分析がどれほど少ないかが明らかになったと述べている。人造ナノ材料のリスク度を厳密に評価することは現時点では不可能であると断言し、こうした評価を可能にするためには、更なるリスク評価プロトコルの作成と、一層の研究が必要であると主張している。また、人造ナノ材料が実験動物の健康に悪影響を及ぼすという証拠があることに言及し、リスクに基づくガイドラインやベストプラクティスを策定する際の基礎となる再現可能で十分特性化(well-characterized)されたEHSデータの利用が可能となるまでは、労働者や一般市民の健康や安全、および、環境を守る予備手段をとることが賢明であると示唆している。一方、ナノテクノロジーの倫理・社会的影響に関しては、科学者やエンジニア、社会学者や毒物学者、政策策定者や一般市民を巻き込んだ統合的アプローチが必要であると主張している。 《提言および提案》
分子自己組織形成を分子サイズの材料やデバイスの作成に利用することが技術的に可能であるか否かの判定を依頼されたNNIレビュー委員会では、2005年2月に専門家ワークショップを開催して、技術情報を考察し、問題を討議した。材料の加工に関しては、半透性膜(semi-permeable membrane)のような比較的複雑な材料も、分子自己組織形成を体現するプロセスによって毎日加工されており、期待通りの材料特性を作るこつは、温度の変化や不純物の付加といった作業条件の適切なバリエーションを見つけることにかかっているため、分子自己組織形成は材料加工に利用可能であるという結論に達した。また、デバイス加工の方は、医療診断用のセンサーといったシンプルなデバイスが、分子自己組織形成を体現するプロセスを利用することで毎日組み立てられており、構造が幾分複雑なものであっても、更に精巧な自己組織形成プロセスで生成することが出来るため、分子自己組織形成はデバイス加工にも利用可能である。 しかしながら、複合物体の大量生産のように、さらに複雑な材料やデバイスの加工となると、シンプルな自己組織形成プロセスが期待通りの成果をあげる見込みは極めて低くなる。何故かというと、システムが複雑になって相互運用する部品の数が増えれば増えるほど、プロセスのどこかの時点でエラーが発生する確率が高まるためである。シンプルな自己組織形成にはエラー修正メカニズムが存在しない。この為、複雑度がある程度に達すると、シンプルな自己組織形成プロセスによる生成高は取るに足らないものとなる。一方、実用的な製造システムではこうした問題を、構成物質の運動に関する動的制約や、並べ替え(sorting)や浄化といったエラー修正プロセスによって解決している。従って、NNIレビュー委員会の前に浮上してきた重要タスクは、さらに精巧な加工プロセスで、より複雑な材料やデバイス、しいては複合システムそのものをボトムアップ方式で生成出来るか否かの評価ということになった。 生体系を組み換えて、生きた細胞の外でこれを作動させた実験証拠があがっており、多くの生物工学研究者は、こうしたシステムが将来の製造プロセスの土台を形成することになると確信している。更に、インフォメーション・テクノロジーとその関連部門の製造技術や研究の動向も、原子レベルの正確さで造形する能力を持つ加工プロセスがいずれは開発されることを示唆している。NNIレビュー委員会によると、理論計算は今日でも可能であるが、化学反応サイクルやエラー率、作動速度やボトムアップ型製造システムの熱量効率を確実に予測することは現時点では不可能であるため、加工製品の(いずれは達成可能であろう)完璧度や複雑度を自信を持って予測することは出来ないとしている。また、生体系の熱量効率その他能力を大幅に上回るシステムの開発へと繋がっていく最適な研究経路を予告することも現時点では不可能である。NNIレビュー委員会によると、抽象モデルに結び付く実証試験や長期ビジョンを導くことになる実証試験を実現させる能力に基づいて調査員に研究資金を給付することが、この目標達成には最適であるという。
注釈: 1:@国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)の技術面での実績評価;A省庁間および研究分野間におけるNNIの管理・調整の見直し;B各省庁のNNI活動予算レベル、及び、各省庁が予算内でNNIの目標を達成出来るか否かの評価;CNNIが、民間部門への技術移転、及び、学際的R&Dの推進で成果をあげているかどうかの評価;DNNIが、倫理面・法制面・環境面・社会面の問題を十分に検討しているか否かの評価;ENNIの新目標、又は、目標改正の勧告;FNNIに掲げられた目標を達成するために必要な新しい研究分野、パートナーシップ、管理メカニズム、および、プログラムの勧告;Gナノテクノロジー研究開発活動に関し、政策変更、プログラム変更、および、予算配分変更の提言;HNNIの目標達成度を評価する査定基準の改善勧告;I全米ナノテクノロジー調整局(National
Nanotechnology Coordination
Office)のパフォーマンス見直し;Jナノテクノロジー研究開発に関する、米国とその他諸国の現状の比較分析;Kナノテクノロジーが米国経済に現在及ぼしている影響の分析。
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