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NEDOワシントン事務所
ブッシュ大統領が、チェイニー副大統領率いるエネルギータスクフォースの作成した「国家エネルギー政策(National Energy Policy)」を発表したのは2001年5月17日。米国の上院と下院は2001年6月以来4年近くの間、包括エネルギー法案を審議してきたにも拘らず、ガソリン添加物MTBEの製造業者を製造物責任法違反の訴訟から守る条項や北極圏野生生物保護区域(Arctic National Wildlife Refuge = ANWR)の一部を石油・天然ガス開発に解禁する条項等がネックとなり、膠着状態を打開できぬままに今日に及んでいる。 米国では、ガソリンの全米平均価格が年初(2005年1月3日発表)の1ガロンあたり1.778ドルからじりじりと上昇し、4月11日には過去最高の2.280ドルを記録した。その後の5週間は連続して下降傾向にあるものの、5月16日発表の全米平均価格は2.163ドルで、昨年の同時期よりも約10セント高となっている(注1)。こうしたガソリン価格の高騰、および、その経済的影響に対する懸念が高まっている今こそが、包括エネルギー法案可決を米国議会に促す最高の機会であると判断したのか、ブッシュ政権は今年2月2日の大統領年頭教書演説(注2)を皮切りに、記者会見や会合(注3)の場を利用してエネルギー政策成立の必要性を主張している。 下院エネルギー・商業委員会のJoe Barton委員長(共和党、テキサス州)は当初、エネルギー法案よりもクリーンエア法改定に関心を抱き、エネルギー法案に関しては、上院議会で大きな進展がない限り、今会期にエネルギー法案を審議する予定はないと語ったと伝えられていたが、エネルギー業界ロビイスト等の精力的なロビー活動、ブッシュ大統領の発言、および、Dennis Hastert下院議長(共和党、イリノイ州)の圧力(注4)等が功を奏し、下院本会議は4月21日に「2005年エネルギー政策法案(Energy Policy Act of 2005:下院第6号議案)」を可決させている。 一方、上院の包括エネルギー法案を超党派で草稿すると約束していた上院エネルギー・天然資源委員会のPete Domenici委員長(共和党、ニューメキシコ州)は、5月13日に委員会審議のたたき台となるエネルギー法案を公開。上院エネルギー・天然資源委員会では、5月17日からエネルギー法案のマークアップを開始した。ここでは、第109議会の第1会期における包括エネルギー法案審議の現状と行方を概説する。
下院議会の現状 米国下院は2005年4月20日に、「2005年エネルギー政策法案(下院第6号議案)」の下院本会議審議を開始した。同法案の審議は比較的順調に進んでいたが、審議2日目の4月21日にLois Capps下院議員(民主党、カリフォルニア州)がMTBE製造業者の免責条項(注5)を下院第6号議案から削除するという動議を提出し、この審議が認められたことで、下院本会議は一時立ち往生となった。共和党指導層は、MTBE地下水汚染問題を地元に抱える共和党議員等に、エネルギー法案が上下両院協議会に進んだ段階で、MTBE浄化・修復プログラムを検討するタクスフォースを両院協議会に設置することを約束。これにより、共和党議員の背反をかろうじて食い止め、Capps議員の動議は213(注6)対219という僅差で阻止された。 下院本会議におけるエネルギー法案審議では30本の修正法案が審議され、19本が可決、11本が否決されている。可決されたのは、エネルギー省(DOE)次官補職2席新設条項をエネルギー法案から削除するというTom Davis下院議員(共和党、バージニア州)とHenry Waxman下院議員(民主党、カリフォルニア州)の共同提案した修正法案;Nancy Johnson下院議員(共和党、コネチカット州)が提案した、環境保護庁(EPA)の燃費テスト試験に現在の運転パターンやコンディションを反映させ、消費者へのより正確な燃費情報提供を義務付けるという修正法案、等。一方、(i) ANWRの石油・天然ガス掘削解禁条項をエネルギー法案から排除するというEdward Markey下院議員(民主党、マサチューセッツ州)の修正法案;(ii) 下院科学委員会Sherwood Boehlert委員長(共和党、ニューヨーク州)が提案した1ガロンあたりの自動車燃費基準を10年間で現在の25マイルから33マイルまで引き上げる修正法案;(iii) Waxman下院議員が提案した、米国内の日間石油需要を2013年までに100万バレル削減する為に必要な自主的活動や規制他の施策をとるよう行政府に義務付ける修正法案、等は否決された。 下院本会議は4月21日に、全ての修正法案の審議・採決を終了。「2005年エネルギー政策法案(下院第6号議案)」の採決へと移り、同法案を249(内訳は共和党208名+民主党41名) 対 183(共和党22名+民主党160名+無所属1名)で可決した。 <下院が可決した2005年エネルギー政策法案の概要> (1) 省エネルギー
(2) 再生可能エネルギー
(3) 石油および天然ガス
(4) クリーンコール・テクノロジー
(5) 原子力
(6) 自動車および燃料
(7) 水素
(8) エタノールおよび自動車用燃料
(9) 電力関連
(10) 優遇税制
上院議会の現状 上院エネルギー・天然資源委員会(注8)のPete Domenici委員長は2005年5月13日に、委員会で翌週検討する9条項を委員会のウェブで発表した。Domenici委員長が、共和党委員と民主党委員が概ねで合意している、比較的問題の少ない条項から順次片付けていくという戦略を採用したこともあり、上院エネルギー・天然資源委員会は5月17日から19日までの3日間のマークアップで、一部の文言(注9)を除き、9条項の殆どを承認している。同委員会では引き続き、5月24日から26日までマークアップ会合を開催し、残りの4条項…石油と天然ガス、原子力、再生可能エネルギー、政府支援の研究報告…を検討する予定であったが、ブッシュ大統領が連邦訴訟院判事に指名しているPriscilla Owenテキサス州最高裁判事の承認審議・採決が上院本会議にかけられたため、5日24日の委員会マークアップ会合は延期となった。上院エネルギー・天然資源委員会は本日25日にエネルギー法案のマークアップを再開。現在までに (i) 2012年までに年間80億ガロンのエタノールをガソリンに混合するよう精製業者に義務付ける条項;(ii) 現行の水力発電ラインセンシング手続きを強化し、州政府・アメリカ先住民族・環境保護団体に同手続き過程への参加権限を付与する条項;(iii) 次世代原子力発電R&Dに対して10年間で12億5,000万ドルを認可する条項を承認している。 <上院エネルギー・天然資源委員会が先週承認した条項の概要> マークアップ第一日目(5月17日) (1) インディアン・エネルギー
(2) エネルギー省のマネジメント
(3) 人事およびトレーニング
マークアップ第二日目(5月18日) (4) 石炭
(5) 自動車および燃料
(6) 水素
(7) 研究開発
マークアップ第三日目(5月19日) (8) 電力事業
(9) エネルギー効率改善
米国エネルギー法案審議の行方 5月25日から再開された上院エネルギー・天然資源委員会におけるエネルギー法案のマークアップ会合では、公益事業持株会社法(PUHCA)を撤回する条項、および、石油・天然ガス海洋掘削に関する州政府の権限を拡大する条項(注10)等が争点になるものと見られている。しかしながら、PUHCAに関しては、委員会の両党指導層が昨日、その廃止条項で合意に達したというニュース(注11)が伝えられており、委員会が今週中にエネルギー法案を可決する可能性はかなり高くなったと言えよう。 上院エネルギー・天然資源委員会がエネルギー政策法案のマークアップを終了し、これを可決すると、同法案は上院本会議へと上程される。Domenici委員長は、マークアップが予定通り今週中に終了すれば、6月中旬には上院本会議での審議を開始することが可能であると発言している。上院本会議における審議では、委員会のエネルギー法案には盛り込まれていない、@自動車燃費の修正法案(注12);A国家再生可能エネルギー使用基準(national renewable portfolio standard)(注13);B気候変動関連条項(注14);C海上LNGターミナルの立地・建設決定に関して州政府とFERCに同等の権限を与える条項、等が提出されるものと予想されている。上院本会議ではまた、エタノール条項が争点となる可能性が浮上している。エタノールに関しては、上院環境・公共事業委員会が年間60億ガロン、そして、上院エネルギー・天然資源委員会が年間80億ガロンの使用を義務付ける条項を個別に承認している。環境・公共事業委員会のJames Inhofe委員長(共和党、オクラホマ州)は、エネルギー・天然資源委員会によるエタノール条項の承認は管轄権の侵害であると批判し、これによって、上院本会議におけるエネルギー法案の審議は大幅に遅れる可能性があると警告している。 上院でエネルギー法案が可決されると、上院案と下院案の相違点をすり合わせるため、上下両院協議会が招聘されることになる。上下両院協議会の議長は、上院と下院が交互に務めることが慣例となっている。2003年の上下両院協議会では上院のDomenici委員長が議長を務めているので、この慣例に従うと、エネルギー政策法案に関する上下両院協議会が今年開かれた場合には、下院のJoe Barton委員長が議長を務めるものと予想される。 上下両院協議会で特に論争を呼ぶことになるであろう条項は、ガソリン添加物MTBEの製造業者を製造物責任法から免責する条項と、ANWRの一部を石油・天然ガスの掘削に解禁する条項の二つ(注15)である。下院案に盛り込まれたMTBE免責条項には、Tom DeLay下院院内総務(共和党、テキサス州)という強力な支持者がいるものの、上院には十分な支持票が存在しないため、同条項は意図的に上院案から外されている。また、下院においても、MTBEの地下水汚染問題を抱え、同条項を不満とする下院議員が数十名いるため、同条項が争点となることはほぼ間違いないものと見られている。 一方、下院のエネルギー法案に盛り込まれているANWR解禁条項は、上院ではエネルギー法案から切り離されて、2006年予算決議案に添付された。上院が少数党による議事妨害(フィリバスター)を破るためには60票が必要である。ANWR条項が上院のエネルギー法案に盛り込まれた場合、民主党による議事妨害は必至であるが、これを破る必要票が存在しないことを認識していたDomeniciエネルギー・天然資源委員長は、ANWRからロイヤリティ収入があがることに着目し、単純多数決で採決される予算決議案に同条項を添付する手段に出たわけである。従って、上下両院協議会では、下院の協議会代表者とANWR条項可決の難しさを熟知している上院側代表者が如何に意見を調整するのかが、もう一つの焦点となろう。 ブッシュ大統領は包括エネルギー法案を8月までに可決するよう議会に要請している。上院と下院が数々ある相違点をすり合わせ、夏期休会(8月1日から9月5日)前にエネルギー法案を可決することが出来るのかどうか、注目されるところである。 <追記> 上院エネルギー・天然資源委員会は5月26日にエネルギー法案の全条項の審議を終了し、これを21対1で可決した。
上院本会議での審議 上院本会議における包括エネルギー法案の審議は2005年6月14日に、上院エネルギー・天然資源委員会のPete Domenici委員長(共和党、ニューメキシコ州)が、下院の包括エネルギー法案(下院第6号議案)(注16)を、上院エネルギー・天然資源委員会が5月26日に可決した上院案で差し替えるという修正法案(上院修正法案第775号議案)を提出し、この修正法案が全会一致で可決されたことにより始まった。上院本会議は6月23日の朝に、エネルギー法案の討議終結(cloture)法案を92対4で可決。6月23日の夜、すべての修正法案の審議と採決が終了した。 6月14日から6月23日までに上院本会議で審議された主要な修正法案とその採決結果は下記の通り:
上院本会議は6月28日(火)に包括エネルギー法案の採決を行い、賛成85、反対12、棄権3でこれを可決した。反対議員の内訳は共和党議員が5名、民主党議員が7名。主要議員の同法案反対理由は下記の通り:
また、エネルギー法案への投票を棄権した3議員の一人が、SA第826号議案の共同提案者であるJoe Lieberman上院議員(民、コネチカット州)であったことは興味深い。
上下両院協議会における争点 米国議会は、上院と下院の包括エネルギー法案の相違点を刷り合わせるため、独立記念日(7月4日)休会が明ける7月11日以降に、上下両院協議会を開催するものと見られている。上下両院協議会では、下記の事項が格別な論議の的になるものと予想される:
ブッシュ大統領は米国議会に、包括エネルギー法案を完成させ、8月1日までにホワイトハウスへ届けるよう要請している。上院と下院は先ず、上下両院協議会への協議メンバーを選定する必要がある。独立記念日の休会に入ることもあり、両院協議会で上院案と下院案の刷りあわせを行って妥協案を作成し、上院と下院がその妥協案を各々の本会議で可決させて8月1日までに大統領に包括エネルギー法案を送付することは、不可能ではないとしても、その可能性はかなり低いであろう。
注釈: 1:データ出典は、Energy Information Administrationの"U.S. Retail Gasoline Historical Prices" 2:演説の大半は、選挙を終えて新フェーズに入ったイラク戦争と、ブッシュ政権第二期の最優先事項である社会保障制度改革に割かれたものの、大統領は米国の経済成長施策に触れ、その一策として、経済成長の持続には手頃な価格の信頼性の高いエネルギー供給が必要であると主張。米国議会に、4年近くの審議行詰まりに終止符を打ち、国のエネルギー供給を安定させる法案を可決するように要請した。 3:特筆に価するのは、今年4月20日に首都ワシントンで開催されたヒスパニック商工会の会合におけるスピーチと、その一週間後の4月27日に中小企業庁が主催した会合でのスピーチ。前者の会合でブッシュ大統領は、議会に対して派閥闘争を乗り越え、今年8月までに包括エネルギー法案を可決するよう呼びかけ、後者の会合では、テクノロジーこそが我が国のエネルギー自立への切符であると発言し、新たなエネルギー・イニシアティブとして@原子力発電所新設推進の為に連邦政府リスク保険確立;A閉鎖軍事基地に石油精製所新設;B連邦エネルギー規制委員会(FERC)に液化天然ガスの新ターミナル立地場所決定権限付与;Cクリーンディーゼル車への税額控除拡大;Dクリーンコール技術、原子力発電等の国際協力拡大、を提案している。 4:Hastert下院議長は、2003年に上下両院協議会が合意した「2003年エネルギー政策法案」と同内容の包括エネルギー法案をファストトラックで可決するよう圧力をかけていた。 5:Capps下院議員が削除を求めたエネルギー法案の条項は、「(前略)自動車用燃料として使用された又は使用される予定の、クリーンエア法の第211条(o)(1)に定められた再生可能燃料やMTBE、及び、こうした再生可能燃料やMTBEを含む自動車用燃料は、環境保護庁長官がクリーンエア法第211条い基づいて課した規制や禁止条例に違反するものでない限り、こうした再生可能燃料やMTBEであるという事実、又は、それを含むという事実によって、欠陥製品であるとみなされることはない。(中略)同条項は2003年9月5日に発効し、発効日またはそれ以降に提出された全ての訴訟に関して適用される。」というもの。 6:MTBE免責条項の削除に賛成した下院議員の内訳は、民主党議員187名、共和党議員25名。 7:夏時間は、現行法では4月の第1日曜日から10月の最終土曜日まで。下院法案の条項は、これを3月の第1日曜日から11月の最終土曜日までに延長することになる。 8:同委員会のメンバー構成は、共和党議員12名、民主党議員10名。 9:PUHCA義務要件を撤回する代わりに、電力事業合併に関するFERCの権限を強化するという文言。 10:産業界は、上院のエネルギー法案に石油・天然ガス海洋掘削モラトリアム(一時中止)を解除する条項が盛り込まれることを期待していた。しかしながら、海洋掘削に伴う環境問題に対する国民の懸念が強いことを考慮し、Lamar Alexander(共和党、テネシー州)、Tim Johnson(民主党、サウスダコタ州)、Mary Landrieu(民主党、ルイジアナ州)の3上院議員は、モラトリアム解除を求める代わりに、海洋掘削プロジェクトに対する州政府権限拡大という条項の追加を試みている。 11:CQ Today, "Domenici Says He's Reached a Deal with Democrats on Electricity Merger Rules" May 24, 2005 12:Dianne Feinstein上院議員(民主党、カリフォルニア州)の提案した、重量1万ポンド以下の車両…SUVや軽トラック…に乗用車と同様の燃費基準(1ガロン27.5マイル)を義務付けるという修正法案は、委員会で7対15で否決されたものの、一部の民主党議員等が何らかの燃費修正法案をエネルギー法案に添付することを画策していると伝えられている。 13:上院エネルギー・天然資源委員会が現在審議中の再生可能エネルギー条項には、連邦政府の再生可能エネルギー使用目標…2007〜2009年で最低3%、2012年までに5%まで拡大、2013年以降は7.5%…が盛り込まれているものの、国家規模での再生可能エネルギー使用基準は含まれていない。 14:Bingaman上院議員は、全米エネルギー政策委員会が昨年12月に発表した『エネルギーの膠着状態の打開:アメリカのエネルギー問題に対処する超党派戦略(Ending the Energy Stalemate)』で提案された温室効果ガスのcap-and-trade制度を、修正案としてエネルギー法案に添付することを検討している。 15:この他には、上院案に含まれているが、下院案にはない、@エネルギー省の次官職と次官補職を追加設置する条項;A日間石油需要を100万バレル削減する方策の策定・実施を大統領に義務付ける条項等があげられる。 16:下院本会議は2005年4月21日に下院第6号議案を249対183で可決。4月26日に同法案を上院に上程していた。 17:同修正法案が電力会社に義務付けている再生可能エネルギーの使用量は、2008年から2011年で最低2.5%、2012年から2015年が5.0%、2016年から2019年までは7.5%、2020年から2030年が最低10.0%。 18:同条項の内容については、NEDOワシントン・デイリーレポートの2005年4月22日特別号を参照されたし。 |