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『Innovate America』:(概要) NEDOワシントン事務所
競争力協議会(Council on Competitiveness = CoC)(注1)が2004年12月15日に首都ワシントンで、国家イノベーション・イニシアティブ(National Innovation Initiative = NII)サミットを開催し、産業界・学界・政府・労働界を代表する400名以上のリーダーが15ヶ月かけて作成した報告書『Innovate America:Thriving in a World of Challenges and Change』(注2)(通称、パルミサーノ・レポート)を発表した。 同報告書は、多くの諸国が市場経済を採用し、コストや質という面で米国と競争可能になっている21世紀の世界において、コンペティティブ・エッジ(競争の優位性)を授けてくれるのはイノベーション以外にはないと結論づけている。また、米国は優れた研究所や大学、有能な労働者、安定した政府、強力なテクノロジー基盤を有し、堅固な土台の上に立っているとはいうものの、イノベーションによる生産性向上や生活水準の向上を目指して新たに台頭してきた世界各地のイノベーション・ホットスポット(注3)からの厳しい競争に直面しているため、この土台が揺るぐ可能性もあると警告している。一方で同報告書は、世界経済の統合とテクノロジーの進歩が、グローバルな経済環境で各国が競争しつつも協調するという、これまでとは異なる複雑な現実を生み出していることを踏まえ、イノベーションの重要性はある国が他国との競争で勝利を得るということよりも、全地球人のためにより良い世界を築いていくことにあると指摘している。こうした観点から、繁栄の牽引力となり、変化の駆動力となる力を持つ米国は、イノベーションを促進する環境作りのために米国社会そのものを最適化していく必要があるとする。「パルミサーノ・レポート」では、イノベーションを基盤とした経済構築に向け、(1)人的資源(Talent)面;(2)投資面;(3)インフラ面の3点から具体的政策を提言している。ここでは、同報告書が作成されるまでの過程、具体的政策提言、および、今後の展望について概説する。 A. レポート作成プロセス 「パルミサーノ・レポート」の作成グループは、Samuel J. Palmisano氏(IBM最高経営責任者)と、ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)のG. Wayne Clough学長を共同委員長とする本部委員会(Principals Committee、業界・学界・労働界の著名リーダー約20名)と、それをサポートする諮問委員会(Advisory Committee、イノベーションに造詣の深いビジネス界、学界、労働団体や政府の代表約30名)、名誉委員会(Honorary Committee、上院議員や下院議員、大統領府高官や州知事の約20名)、および、提言策定を実際に担当した7つのワーキンググループ(working group = WG)から構成(注4)されている。7つのWGの目的は下記の通り:
上記7つのWGは2004年2月、5月、9月に会合を開催し、各担当分野を分析して最終報告書をまとめ、これを昨年10月に本部委員会に提出している。今回発表となった「パルミサーノ・レポート」は、各WGの最終報告書に盛り込まれていた3〜5つの優先的提言…内2つは実行可能な公共政策改正もしくはイニシアティブ…を、本部委員会が諮問委員会や名誉委員会との協議を経て、一つに集約大成したものである。 B. 提言 1. 人的資源の確保 (1) 「国家イノベーション教育戦略」の策定 2. 投資による支援 (1) 先端的・学際的領域研究の再活性化 3. インフラの整備 (1) イノベーション成長戦略に対する国家的コンセンサスの形成 C. 今後の展望 NIIサミットが開催された2004年12月15日に、大統領府が同じく首都ワシントンで、社会保障制度改革、手頃な医療保険、税制改革、不法行為法改革(Tort Reform)を始めとする政治色の強い問題をとりあげたホワイトハウス経済会議(White House Economic Conference)を主催した。CoCのNIIサミット開催日程がかなり前から大統領府に通知されていたにも拘らず、大統領府がわざわざ経済会議の開催日を12月15日とした真意が問われるところであり、前政権ほどには科学技術政策に熱心でないブッシュ政権は、イノベーションの重要性を声だかに唱える「パルミサ−ノ・レポート」を重視していないのではないかと疑われる所以でもある。 ブッシュ大統領は2月2日に年頭教書演説を行い、「米国経済の成長速度は主要先進国の中で最高であり、..海外に新市場を開拓し、..昨年一年間で230万の新雇用を創出した」と述べたほか、米国経済の競争力や生産性を更に向上させる政策として、規制緩和、法制改革、手頃な医療保険、医療過誤訴訟改革等を呼びかけた。これらは、大統領府がNIIサミットに対抗して主催したホワイトハウス経済会議の課題を殆どそのまま反映するものであり、大統領のイノベーションに対する姿勢を覗かせているように思える。 一方、民主党を代表して反論演説をしたHarry Reid上院院内総務(ネバダ州)は、大統領の計画は真の解決にはならないと主張し、将来雇用創出に向けた新技術研究開発の推進、大企業の海外アウトソーシングを奨励している特別税控除の廃止、21世紀の世界経済で必要となる世界一流の教育や技能を米国民が受ける権利、といった民主党ビジョンを披露した。 このReid上院民主党院内総務の発言と、Joseph Lieberman上院議員(民、コネチカット州)が2004年7月に「米国経済の将来を考える委員会を設置する法案(Bill to Establish Commission on the Future of the United States Economy:上院第2747号議案)」(注5)を提出したことを鑑みると、大統領府よりも米国議会の方が「パルミサーノ・レポート」提言を歓迎することは十分にありうると思われる。事実、CoCの議会アウトリーチ担当者が、同報告書の回覧を議員に働きかけているという。また、Lieberman上院議員のスタッフによると、同議員は「パルミサーノ・レポート」を綿密に考察し、議案化に相応しい項目があるか、上院にとっての関心項目があるかを検討中であるが、未だ決定にいたっていないという。同報告書の提言が米国政府の政策にどのように取り込まれていくか、興味深いところである。
注釈: 1:競争力協議会は、米国が世界最大の債権者から最大の負債者へと落ち込み、テクノロジーやイノベーションのリーダーとしての地位が揺らぎ、米国産業が海外競争者に市場シェアを奪われる等の経済的課題に立ち向かう目的で、産業界・学界・労働界のリーダーによって1986年に創設されたフォーラムである。現議長は、BellSouth社の最高経営責任者 兼 社長のF. Duane Ackerman氏。 2:Council on Competitiveness, Innovate America, December 2004. http://www.compete.org/pdf/NII_Final_Report.pdf 3:報告書では、インド、中国、ロシア、イスラエル、シンガポール、台湾、韓国を挙げている。 4:Council on Competitiveness. Background documents参照。http://www.compete.org/docs/pdf/NII_Consolidated_Background_10-21-04.pdf 5:レーガン元大統領時代に設置された「ヤング委員会」に類似した委員会を設置して、米国経済、米国企業、および、米国労働者の競争力を調査し、競争力低下に歯止めをかける為に必要な技能基盤やイノベーション・キャパシティの構築に関する提言を提出させるという法案。上院に提出されたが、審議にいたらず、消滅している。
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