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2004年2月4日
2004年1月16日、エバンス商務長官より「米国における製造業:米国製造業の課題に向けた包括的戦略(Manufacturing in America: A Comprehensive Strategy to Address the Challenges to US Manufacturers)」と題する報告書が発表された。本報告書は、製造業の現状、直面する課題、今後の製造業と米国経済拡大のための提言の3章から構成されている。 そして、提言では、直面する課題として指摘されている6つのカテゴリー毎に、業種横断的な63項目の提言が挙げられている。なお、とりまとめに当たっては、昨年4月から9月にかけ、自動車、航空機、バイオテクノロジー、半導体、化学、医薬品、プラスティック等の様々な製造業者を招いて23回にわたり開催された円卓会議の結果が反映されている。 米国製造業はGDPの14%、雇用全体の11%を占め、米国とって重要な産業であるものの、2000年以降の景気低迷の中で総生産量が6%減少し、260万人の失業者を生み出す等厳しい状況に置かれている。このような状況に対し、1年程前からブッシュ政権は有効な対策を講じていないという批判が出されはじめていた。そして、大統領選挙を控えるブッシュ大統領は、昨年9月製造業が直面している問題や対策をまとめた包括的な報告書を早急に取りまとめると公表。今回ようやくその報告書が公表されたものである。 同報告書に対する製造業界からの反応は全体的に肯定的なものであった(1) 。全米製造業者協会(NAM)会長ジャシノウスキー氏は、「ブッシュ政権が製造業を米国経済にとって重要であると認識し、米国製造業の国際的競争力強化に向け積極的に取組む姿勢を表している」として、ブッシュ大統領とエバンス商務長官によるイニシアチブを絶賛している。 しかし、一部には製造業界からは批判の声も聞かれる。例えば、報告書の内容は以前からブッシュ政権によって後回しにされてきた政策(減税の恒久化、違法行為・規制改革等)を一つにまとめただけであり、政権が今まで製造業を巡る問題に取組んで来なかったことを示しているに過ぎないとの指摘や、今までに実行されなかった施策が、この報告書の発表によって直ちに実行されるか疑問という声も聞かれる。 また、商務省内・政府内で意見が分かれた(2) 、内容が複雑で事実確認に時間がかかった(3) 等、様々な理由が取り立たされているが、当初昨年9月に公表するとされていたものが大幅に遅れたこと、また、その間に景気が持ち直し雇用状況にも好転が見られる等、間が抜けたものとなっているとの指摘もある。 以下、同報告書の概要をまとめたものである。
1. 米国製造業の現状 1.1. 世界経済の中の米国製造業 @ 米国経済における製造業の現状 製造業は、米国経済にとって極めて大きな位置づけを有している。それは、製造業が他の全ての産業、そして国民の生活水準に多大な影響を与えること、また製造業がGDPの14%、そして雇用者数全体の11%を占めていること、さらに製造業が各産業の需要を拡大させていることなどが挙げられている。しかし、製造業が米国経済にとって不可欠な産業である最大の理由は、イノベーションと生産性にある。これは、イノベーションが生産性向上のカギとなり、生産性向上が経済発展と国民の生活水準の向上をもたらすからである。 製造業におけるイノベーションは、過去25年間で大幅な生産性向上をもたらしているが、これは1977年から2002年の間、他産業の生産性向上が53%に留まっていたのに対し、製造業の生産性が109%上昇していることからもわかる。特に過去2年半の間で製造業における生産性は14.2%の成長を見せており、これは2年半という期間で見て、過去50年間で最も高い成長率となっている。また、米製造業は過去50年間、不況の時期も含んで、ドイツ・フランス・英国と比較しても、より高い生産性を維持している。 このように、他国と比較しても際立つ米製造業における生産性の向上であるが、その理由は、製造業における「技術イノベーション」にある。技術イノベーションには「急進的(Major)なもの」と「漸進的(Incremental)なもの」の2種類があるが、どちらとも、製造業の競争力を強化し、米経済全体を支える重要な役割を果たしている。製造業においてR&Dへの多額の投資が行なわれていることで、イノベーションが促進され、生産性向上、賃金向上、低価格・高品質の商品開発が進んでいるといえる。米国内では、民間企業は年間1,930億ドルのR&D投資を行っているが、うち60%は製造業におけるものとなっている。 また、イノベーションや生産性以外でも、製造業は雇用の面で米経済に貢献している。歴史的に見ても、製造業は、多くのブルー・カラー労働者に高賃金の職を提供している。過去10年で比較すると、卸売業や金融、またサービス業などが、製造業よりも高い賃金を提供しているが、退職手当や保険などの手当(Benefits)を見ると、非製造業労働者の1時間あたり5.94ドルに対し、製造業労働者が受け取る手当ては1時間あたり8.89ドルとなっている。生産性増加が需要の伸びを追い越したことにより、過去30年間で製造業の雇用は減少の傾向にあるものの、これは労働者による生産性が向上した結果であり、大幅な成長を遂げた経済に見られる一般的な兆候であるため、製造業に限った現象ではない。 いずれにしても、米国内における製造業の雇用が減少の傾向にあるのは事実で、特に過去数年の経済停滞により製造業は大きな打撃を受けている。1950年から8度あった経済不況において、国内総生産は平均でおよそ2%減少しているのに対し、製造業の総生産量は平均で7%も減少している。また、近年の不況で製造業に見られる傾向は、総生産量が急減するのではなく、景気回復のペースが非常に遅いことである。第二次世界大戦後、米製造業は景気回復最初の2年間で総生産量を15%伸ばしているが、過去2年間ではGDPの成長にもかかわらず、製造業の生産量は減少し、失業率が高くなっている。 近年の不況が特に製造業に大きな打撃を与えた理由は、以下のように4点あると考えられる。
このように、製造業は多方面からの打撃を受けている。しかし、米経済全体は、2003年第3四半期には8.2%の成長を見せており、これにより製造業における景気回復も見込めると予測されている。また、海外市場でも景気回復の兆しがみられているため、今後製造業の回復が期待できる。 A 世界的製造業構造の変化 過去20年で、製造業の構造には3つの大きな変化が起こっている。まず1つ目の変化は、製造業の生産性を向上させ、コスト削減を広範囲に渡って実現させた「技術」革新である。2つ目の変化は、多くの貿易障壁が撤廃されたこと、そして最後に、70年間以上も市場を分断していた政治的分裂に終止符が打たれ、ロシアや中国が自由貿易世界に加わったことである。 技術革新 コンピューティング、通信、そして流通の3つの分野の生産活動が、技術革新によって向上・促進されたことにより、貿易、投資、そして製造におけるビジネス機会が大幅に拡大され、製造業は根本的に変化した。ノーベル賞受賞者の経済学者ロバート・ソロー博士(Robert Solow)が主張するように、実際コンピューターの導入が生産性向上につながったという統計はこれまで存在していなかった。しかし、1990年代後半以降、ようやくコンピューター導入の影響が生産性向上に反映されるようになっており、例えば、1973〜1995年と比べると、1995〜2000年の間には、労働生産性は年間1.2%の成長を遂げている(4)。コンピューターが持つ計算能力と、無限の応用性は、現在の製造業に最も大きな影響を持つといっても過言ではない。 まず、コンピューティングであるが、18ヶ月ごとにチップの計算・処理能力が倍増するというムーアの法則が有名であるが、IT技術が経済や生産性に与える影響を疑う学者でも、演算能力向上が製造業に与える影響は否定していない(5) 。そして、この処理能力は、製造業におけるデザイン、開発、試験・シミュレーションといった、全てのプロセス処理を低コストで可能にし、精密度・質・効率性の向上につながっている。さらに、コンピューターは、新製品開発、製造コスト削減、品質向上、パフォーマンス測定、そして業務管理の強力なツールとして利用されており、製造業だけに留まらず、ビジネスプロセス全般において大きな影響を及ぼしている。 次に、通信技術は、高パフォーマンスの製造事業の経営に不可欠な技術である。リアルタイムでのコミュニケーション技術や、相互操作が可能なシステムは、製品開発において、製造業者と顧客の間や、エンジニア間の協力促進に寄与している。 さらに、ワイヤレス・コミュニケーションやラップトップといった新しいコミュニケーション技術は、3つ目の要素である流通に大きな影響を与えている。これは、コミュニケーション技術の発達により、輸送コストが削減されたことが大きい。当然のことながら、空輸やコンテナ輸送の発達も、流通システムの革新につながっている。 このように、コンピューティング、通信、そして流通技術は、製造業の競争能力を維持させてきた。しかし、米製造業は、より高質で低価格の商品を提供するという市場圧力の中にあり、競争力を失わないため今後もR&D投資を積極的に行っていくことが必要とされている。 貿易障壁の撤廃 製造業に起こった2つ目の構造的変化は、関税などの貿易障壁が大幅に撤廃されたことである。GATTやWTOなどによる多国間交渉の結果、世界における製品関税のうちおよそ30%が削減されている。特にOECD参加国においては、第二次世界大戦直後40%であった関税は、現在4%となっている(6) 。実際、GATTのシステムが導入されてから、世界の輸出は1948年の580億ドルから、2001年の5兆9,800億ドルまで成長している。 さらに、WTOによると、世界の物品貿易のおよそ4分の3、貿易全体(製品・サービス含む)の約60%は、製造品となっている(7) 。製造品貿易がこのように貿易市場において盛んに取引されている理由は、世界各国において製造品輸入にかかる貿易障壁がいち早く取り払われたからであるといえる。例えば、農産物の輸出額は過去20年、年間3%の増加に留まっているのに対し、製造品輸出額の年間成長率は、ほぼ倍にあたる5.7%となっている。貿易障壁の撤廃が進んでいることは、米国経済の成長に大きく貢献しており、例えば、1990年から2000年までの間に、米国輸出額は87%増加した他、米国が世界の輸出に占める割合も11.4%から12%に増加している(8) 。また、貿易障壁撤廃によって、以前なら海外市場から締め出されていた小規模の製造業者も、海外市場に加わることができるようになった。 しかし、貿易の促進において必要となる政策は、国内の産業を保護するものではなく、公平な市場競争を対外的に促すものである。これは、米製造業者が遵守すべきルールが、海外の製造者にも同様に適用されるという、公平競争を促進する必要性があるからである。現在、米製造業は海外、特にアジアの低価格な商品が市場に出回っていることから打撃を受けており、米国が世界に占める商品貿易のシェアは、減少の傾向にある。 政治的要因 製造業における3つ目の構造的変化とは、冷戦が終り、中国やロシアが自由経済に加わり、世界経済に大きな影響を与えたことである。例えば、アジアの主要諸国が世界の貿易に占めるシェアは、過去20年間で増加の傾向にあるが、最も目覚しい伸びを見せているのは中国である。1980年、中国が世界貿易に占めるシェアはわずか0.8%であったが、2001年、中国のシェアは5.3%まで増加しており、現在では世界4位の輸出国となっている。しかし、中国のシェアが増加したことにより、日本やヨーロッパのシェアは減少したものの、米国のシェアは1980年から2001年までに13%から13.5%に増加している(9) 。 まとめ 前述のような3つの変化が世界的に製造業の構造に起こったことにより、現在では、低コストの製品、労働、部品組み立てなどを海外にアウトソーシングすることが、製造業の生存競争にとって不可欠になっている。これによって、製造業者間ではなく、世界中のサプライ・チェーンの間で市場競争が激化するようになり、製造業者は、マーケティング方法や業務管理手法を変更しなければならなくなっている。米国政府は、米製造業の発展と、グローバル市場競争を促進するような経済政策を実施する必要がある。
2. 米国製造業が直面する課題 商務省が製造業者を招き行った23回にわたる円卓会議の結論として、米国製造業が直面する問題で迅速な対策が必要である点として、以下6つの問題点が挙げられている。
1 製造業とその競争力への政治的関心の欠如 円卓会議において度々指摘されたのが、米国経済の基礎ともいえる製造業が政府から適切な関心と注目を得ていないことである。連邦政府には、製造業を代表する省庁がない他、連邦・州・地方のどのレベルにおいても製造業支援を柱とする政府プログラムがない、さらには、商務省において製造業競争力向上をミッションとするオフィスが存在していないという問題点が指摘されている。 2 国内・海外における製造業と経済の成長に関わる政策の欠如 円卓会議では、経済成長を促進するための政策が最も重要であるという指摘があった。製造業者は、昨今の不況の最大の原因は、消費者支出の低迷ではなく、企業投資の落ち込みであるとしており、今後製造業の復興には、企業投資を促進させる政策が不可欠であると主張。 2003年5月の税制改正法(Jobs and Growth Tax Relief Reconciliation Act of 2003)の制定は、企業投資促進に結びつき、製造業にも大きな恩恵を受けると考える企業関係者がいる一方で、このような一時的な減税では不十分で、長期に渡った減税措置を取らなければ企業投資は促進されないという批判の声も上がっている。 さらに、製造業からは、国内経済の振興だけではなく、地球規模の経済成長を目標として、2カ国間・多国間協議や合意、または、G7財務長官会議、G8サミットや、IMFまたは世銀との話し合いを進める必要があるという指摘もある。また、各国に対し貿易の自由化を進めるよう交渉を続ける必要もあるとされている。 3 競争を妨げる規制コストの存在 製造業から一貫して挙げられる問題点には、政策や規制遵守にかかるコストによって、製造業の競争力が低下してしまうということである。特に、医療関連、不法行為(訴訟や保険など)、規制(環境規制順守など)、エネルギー、そして税金といった5種類のコストが、製造業の競争力を除々に弱めていると指摘。 まず、国内の医療費が高く、今後も増加すること(10) が予測されており、企業側にとっては、従業員の健康保険料を払うことが大きな負担となっている。次に、不法行為コストであるが、これは米国内の損害保険や民事責任では、幅広い損害に対する企業補償を認めているため、企業が訴訟や賠償金として、実際にそれらを受け取る権利のないと考えられる相手にも補償を支払いが命じられることがあり、賠償金が膨大な額にまで膨れ上がるという問題がある。 規制コストは、環境規制の順守にかかるものが大半であるが、その他には、職場や商品の安全性や、関連書類の処理コストなどが挙げられる。エネルギー・コストにおける問題は、エネルギー価格が上昇することにより、エネルギー国内消費量の3分の1を占める製造業は運営費や製品の価格を下げることが困難になるため、製造業を含む産業界全般では、長期的で信頼性の高いエネルギー政策を求めている。 最後に、連邦・州・地方政府で課される多額の税金が製造業への投資を阻害していることが製造業企業から問題視されている。製造業側は、消費者の需要と企業投資を促進し、短期・長期的にコストと経済回復に対する不安を緩和するような減税政策を求めている。 4 技術革新における国際的リーダーシップの維持 円卓会議では、技術分野における国際的リーダー役としての維持と製造業に不可欠な労働力の重要性が幾度と指摘されている。これは、政府・民間による積極的なR&D投資を通じて、技術イノベーションにおける米国の国際的リーダーシップを確保し、米製造業の将来的な競争力を強化することを求めるものである。 特に、政府による基礎研究への投資は将来の発展にとって非常に重要であるが、製造業分野については政府にそのような意欲が感じられないという懸念が製造業者側にはある。特に、将来製造業にとって応用性の高い国防や宇宙関連の研究に投資を行なう必要性や、食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)がめまぐるしく変化する技術やイノベーションにうまく対応できていないという懸念が表明されている。 5 不十分な教育制度 製造業者が円卓会議で挙げた懸念点は、教育制度にもある。これは、例えば2002年、中国で授与された学位の58%が物理学とエンジニアリングであったのに対し、米国では17%のみとなっており、また、中国では大学卒業生全体の39%がエンジニアであったのに対し、米国ではわずか5%であった(11) ことからもわかるように、米国内で科学技術分野で将来的に活躍する人的資源を創出する能力が、教育分野で低下していることが、特に製造業界で懸念されている。 今後、米国が技術イノベーションのリーダーとしてその競争力を促進するのであれば、高度の技能を持つ労働者が不可欠となるため、製造業では、変化の激しい経済環境について行けるような反応の早い(Responsive)システムやプログラム(雇用・再雇用を促進するためのもの)を必要としている。 6 公平でグローバルな競争市場の必要性 製造業からは、「グローバルかつオープンで公平な競争の場所」が短期的な要求として挙げられている。例えば、米国内で事業を運営するコストと、海外(中国など)でのコストに格差があるため、製造は海外で行う方が効率が良く、現在の状態は、米製造業者による海外への製造事業移転を促進させている。 しかし、製造業の立場から見ると、こういった状況は、公平な競争の場所がグローバルに存在していないことを意味する。さらに製造業からは、必要なことは、国内における競争相手からの保護ではなく、貿易障壁を無くすことであると指摘されている。中には、連邦政府が他国政府と貿易交渉を行なう際に、米製造業の利益が考慮されていないという声も上がっている。 最後に、米国の貿易赤字の問題が挙げられている。これは、米製造業の競争力が低下したのではなく、海外政府による市場介入などが原因であると考えられており、今後はよりオープンで公平な競争を可能にする環境が必要であるというのが米製造業による主張である。 3. 提言 最後に、米国製造業が直面する課題において指摘されている6つのカテゴリー毎に、63項目からなる業種横断的な提言が挙げられている。 製造業の競争力に対する政府の取組みの強化
経済成長と製造業への投資を促す環境作り
米国内の様々なコストの削減
イノベーションへの投資
教育制度の改善と経済の多様化
オープンな市場と公平な競争市場
注釈:
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