|
|
2003年9月17日 1. 概 要 (1) 新規発生源審査規則見直しの公表 環境問題を巡っては、発電所から発生するCO2規制の否定、京都議定書への不参加等、産業界寄りの政策を展開してきたブッシュ政権であるが、これに加えて、かねてより議論が行われて来たClean Air Act に基づくNSR(New Source Review;新規発生源審査)問題についても、その緩和に向けた規則改定が進められている。そして、これまでNSR適用対象が不明確で問題であるとの指摘が多くなされてきたことを受け、NSR適用除外対象のうち、さし当たり“装置の取替え”の明確化を狙った規則が公表されたところである(8月27日)。 これに対し、産業界は、特にニューヨーク等でのBlack out直後の発表であったこともあり“電力の安定供給、清浄な大気の確保のために必要な措置である”、“単なる規定の明確化であり審査手続きの円滑化に繋がり、ひいては供給能力の拡大につながる”と、これを歓迎している。 一方、これに対して、民主党、環境積極派さらには、カリフォルニアをはじめ州政府からは強い批判が出されている。民主党議員からは“新たなルールでは係争中の全発電所が適法化されてしまう"“今回の改定はエネルギー業界に対する政権からのお礼である”といった声も上がっている。 また、実際の運用を委任されている各州においては、例えば、当該改定規定はカリフォルニア州においては適用しないとの法案が州議会で早速9月11日に議決されたのを始め、また、ニューヨーク、マサチューセッツ州も反対を表明し、例えば、メリーランド州アーリック知事は共和党の知事であるが“はじめは戸惑いを感じた”といった状況にある。 (2) これまでの経緯 新規発電所・石油精製施設の建設あるいは大気汚染物質の増加を伴う改造・補修を行う際には、Clean Air Act(1977年改正)に基づき大気汚染防止設備を設置し、許可を受けることが義務付けられている。ところが、未だに数多存在する旧式の発電所においては、仮に性能維持、出力向上のための設備改修を行うとすると、いかなる改修も当該規定に引っかかり、当初の目的である改修に加え、大気汚染防止施設を新たに追加せざるを得ない状況となってしまう。これに対して、産業界からの強い反発があり、EPAは、NSR適用除外の規則を設けた(1978年)経緯があるが、その適用除外の条件が不明確であったことが事の発端となっている。 実はこのNSR自身、90年代初まで、一部州政府からの申し立てがない限りEPAは問題としない等、厳格に運用されていた訳ではなかった。ところがクリントン政権になりこの状況は一転した。1998年7月には改正規則案がEPAから公表され(最終的に規則変更に至らず)、また、連邦政府は電力会社、石油精製会社等12社(51ヶ所の施設)を相手取り、NSR違反で起訴する事態に至っていた。 電力や石油精製業等からは、このような問題が生じるのは規定の運用が不明確であるからだと批判が出されていた。そして、従来NSRの適用除外がEnjoyできていた古いプラントについては、仮に環境負荷が低減するような改修であっても、NSRの条件に引っかかると、当該改修に加えて追加的に大気汚染防止装置の設置が義務付けられてしまい、過大な投資が必要となるとして強い反発の声が上がっていた。 (3) ブッシュ政権の対応と今後の動き これが、ブッシュ政権において大きく転換されることとなった。電力、石油精製といったエネルギー産業はブッシュ政権に対し、NSRの見直しについてロビー活動を展開。そして、2001年5月に公表された国家エネルギー計画の中に見直しを行うことが明記された。これを受けて、EPAが中心とする各省庁連携チームが設けられ、NSR規制運用についての規則及び定期メンテナンスの定義等を明確にすることとなった。 そして、2002年12月にEPAからNSR運用規則及び改修関連の規定の見直し案が提出された。しかし、NSR運用規則案については、各州政府からの無効確認提訴もあり、当初2003年3月から適用予定であったものの実施は遅れており、この7月25日には、EPAから正式にNSR運用規定の一部について再考を行うことが発表される状況にいたっている。一方、改修関連の規定案については、2003年末までに最終化する方針であるとされていたところであったが、改修の具体的内容として検討されている、1)定期メンテナンス、2)修理、3)取替えのうち、“取替え”についてのみ8月27日に最終規定として発表された。これによると、@取り替えるものが同等の装置である場合、A取替えに伴うコストが、ユニット全体の取替えコストの20%を超えない場合、Bユニットの基本設計に変更がない場合、C取替え後の排出量が規制値を越えない場合には、NSRの対象から除外される。従って、これら取替えに係る改修を行っても大気汚染防止装置の追加設置が求められないことが明確になったのである。 今後、その他の適用対象除外規定の明確化、より本質的な問題を含むNSRの規定改正案の検討が進められることなる。しかし、このClean Air Actについては、ブッシュ政権としては、従来より、大幅な改正を行うべきであるとしており、対抗策として昨春Clear Sky Initiativeを打ち上げ、議会の共和党議員に対してClear Sky法案の策定を要請しているところ。次期大統領選を前に、環境問題へのブッシュ政権の取組み姿勢を巡り、世論の関心も高まりを増すものと見られており、議会、ホワイトハウスの動きは、今後、活発化していく可能性がある。
2.「新規発生源審査(NSR)」について 2-1大気浄化法の中で定められたNSR 「新規発生源審査(New Source Review:NSR)」は、大気汚染防止を謳った「大気浄化法(Clean Air Act、1970年成立)」が1977年に改正された時に導入されたプログラムである。NSRでは、公共の健康を守り、大気汚染被害の拡大を防ぐため、大気汚染物質の主要排出源となっている工業施設に対し、@施設建築の際、または、A物理的・業務上の変更を行なったことで大気汚染物質排出量が増加する際には、大気汚染制御装置を取り付けることが義務付けられている。 NSRは以下の2種類に分類されており、それぞれに異なる条件が課せられている。(1)(2)
一般的に、NSRを実際に管理・運用するのはEPAではなく、各州・地方政府の中で大気汚染物質を監視したり許可書発行を担当する部署が行なうことになっている。このため、工業施設を新設する事業者、または、既存の施設において改修を行なう事業者は、まず、州・地方政府においてNSR許可申請を行なって、当該新設・改修の際に適切な大気汚染浄化装置が取り付ける予定であることを確認しなければならない (4)。EPAのデータによると、NSR許可の年間申請数は約250で、申請から認可までかかる期間は平均で6〜7ヶ月となっている。 各地方自治体は、大気浄化法で定められたNSR関連規則を取り入れた「州実行プラン(State Implementation Plan)」を各地域のニーズや汚染実態に合わせて作成することが義務付けられており、EPAからの承認を受けている限り、より厳しいNSR規則を作成することも認められている (5)。 2-2 NSR適用免除規定の誕生 大気浄化法で定められたNSRは適用範囲が非常に広いものであった。例えば、既存の工業施設における改修を行なう場合、NSR規制に従って大気汚染防止装置を設置しなければならないのは、「いかなる改修(any modification)」であると法文上はなっている。また、「改修」の定義も、「大気汚染物質の排出量増加につながる、または、これまで排出されていなかった大気汚染物質の排出につながる、物理的または業務上の方法におけるいかなる変更 (6)」となっており、工業施設における改修の多くがNSRに従わなければならないことになっていた。 このためEPAは1978年になって、@改修が「定期的なメンテナンスと修理(routine maintenance and repair)」 (7)である場合、または、A改修による大気汚染物質排出量増加が、EPAが定めた最低限(de minimis)限度量 (8) を超えないものである場合の2つに限って、NSR適用から免除するという規則を作成したのである。しかしEPAは、どのような改修活動が「定期的な」活動に当たるのかについて明確な規則を設けなかったため、現場でのさらなる混乱を招くことになった。1994年には、あるEPAスタッフが「定期的な」という言葉を「軽微な(minor)」という言葉に置き換える案を内部で提出したものの、この意見は規則改正に反映されることはなかった (9) 。 NSR規則に従わなければならない、発電所、石油精製所、製紙工場や自動車工場などを有する民間企業は、連邦政府に対し「定期的なメンテナンスと修理」を明確に定義するよう求めてきた。民間企業からは、言葉の定義が不明確であることから、工業施設をより効率的で環境に配慮した形で改修する計画であっても、NSR規則があるために、企業側が投資を控えることになってしまうという指摘があった (10) 。NSRで設置が定められているような大気汚染防止装置は高額で、EPAの試算によると、施設によっては設置費用が1億ドルに達する例もある(11) ほどで、大気汚染防止装置設置義務が工業施設の改修を妨げているという批判の声が、民間よりあがっていたのである。しかし、クリントン政権より以前では、NSRに違反しても連邦政府から訴えられたり罰金支払という法的手段がほとんど取られなかったため、民間企業の間ではNSR規則は「死文化」と同様であると長らく考えられてきた。 2-3 クリントン政権下におけるNSR NSR規則改正への試み 民間企業より嘆願されてきたNSR規則改正は、クリントン政権になってようやく一歩を踏み出すことになった。1992年よりEPAではNSR規則改正に向けて調査を行なっており、1993年には諮問委員会を設置して、NSR規則が民間企業に与えるインパクトや改正案などの分析を行なっている。1996年7月23日、諮問委員会の提言に沿って、EPAは以下の通りのNSR規則の改正案(12) を発表している。
EPAでは改正案発表後、公聴会を2回に渡って開催し、環境団体、民間企業、連邦・州・地方政府職員など50人以上の関係者から意見を聞いている。ここで集まった意見を参考に、1998年7月24日に改正案の一部修正を行ない、同時に、@排出量限界値決定手法、A排出量予測手法、BPALsの3点についてさらなる意見を一般から募ることになった。EPAでは2000年春頃に最終規則を発表する予定としていたが、クリントン政権終了までに最終的な規則を確立することはできなかった。 NSR違反業者に対する積極的な法的措置実施 クリントン政権以前では、NSR違反の業者を調査したり取り締まったりすることは非常に稀であったが、クリントン政権ではNSR違反業者に対する非常に積極的な法的措置実施が行なわれるようになった。 1980年代では、数件の工業施設に対してNSR条件の強制執行(つまり、大気汚染浄化装置の取り付けを命令)を行なったが、この強制執行もEPAが調査した結果行なわれたものではなく、工業施設または州政府が、NSR規則に抵触するかしないかの是非を巡ってEPAに判断を要請した結果、設置命令が行なわれたものがほとんどである。他にも、NSR許可が下りていない工業施設から煙があがるのを、偶然車で通りかかったEPA職員が気がついたことからNSR違反が判明したという実話もある(15) 。 クリントン政権になってからは、まず、1992年にベニヤ板・木材製品加工企業数社に対する調査を開始しており、NSR許可を得ることなく改修を行なった各工業施設に対して、EPAがNSR違反を確認するための訴訟を起こしている。これらの訴訟は実際に裁判が行なわれることなく、1990年代半ばまでに、罰金支払と必要な汚染防止装置を工場側が取り付けることで和解に持ち込まれている(16) 。 その後、EPAでは各産業セクターごとに、環境負荷データなどを利用した包括的な分析を行なった「セクターノートブック(Sector Notebook)」(17) を順次まとめていった。セクターノートで集められたデータによると、生産規模が1990年代を通じて拡大し、企業も大規模な設備投資を行なっているにも関わらず、州政府に提出されるNSR許可請願数が増加していない産業があることが判明してきた。そこでEPAは、そのような産業である、石炭火力発電所、石油精製、鉄鋼、化学、そして、製紙産業の5産業をNSR違反調査の中心とする方針を打ち出したのである(18) 。 EPAによる長期に渡る調査の結果、1999年11月、司法省はEPAに代わって、NSR違反で7電気事業者を提訴した。これら7電気事業者(19) は全米の17ヶ所の発電所において、必要とされる汚染防止装置を設置することなく改修を行なったというのが司法省側の主張である。翌年12月にも同じ理由でデューク・エナジー社(Duke Energy Corp.)が提訴されたりしており、石炭火力発電所だけでみると、1999年以降に連邦政府から提訴されたのは発電所51ヶ所の所有企業12社となっている(このうち現在までに5社と和解)(20) 。また、提訴まで行かないもののEPAからの厳重注意が通達される企業も多い。 NSR違反が確認された企業に対しては、罰金の支払いと必要な大気汚染浄化装置を設置することが命令されるのが一般的である。例えば、クリントン時代にNSR違反が指摘された電力事業者ドミニオン・リソーシズ社(Dominion Resources、本社:バージニア州リッチモンド市)とは2003年4月に和解にこぎつけたが、罰金額は12億ドルとなっている。(21) 連邦政府と企業側の交渉の折り合いがつかずに和解できない場合は、連邦裁判所でNSR違反があったかどうかを争うことになる。1984年から1998年に渡って、サミス発電所(発電量2,233MW級石炭火力発電所)において行なわれた11回の改修(投資総額約1億3,400万ドル)が、NSR違反であるとEPAから指摘されたオハイオ・エジソン社(Ohio Edison)は、EPAの判断を不服とし、連邦裁判所の判断を仰ぐことになった。しかし、オハイオ州連邦裁判所は、改修の結果、窒素酸化物や二酸化硫黄、ばいじんなどの「大気汚染物質排出量が大幅に増加」し、焼却炉、ボイラーチューブなどの改修は、NSRが定めるところの「定期的なメンテナンス・修理」の程度を超えており、同社による改修は大気浄化法違反であるとの判決が今年の夏に下っている。オハイオ・エジソン社の親会社であるファーストエナジー社(FirstEnergy)は控訴するかどうかについて態度を保留中であるが、現在の予定では2004年3月に罰金額が決定することになっている(22) 。その他に裁判に持ち込まれる予定であるのは、シナジー社(Cinergy Corp.)とデューク・エナジー社、サザン社(Southern Co.)の子会社3社などとなっており、シナジー社に関する審理が2004年10月に予定されているほかは、審理日程は未定(23) 。 このようなクリントン政権における積極的なNSR違反調査・提訴・強制執行は、民間企業からはもちろん不人気であった。民間側の主張として見られたのが、EPAの「定期的なメンテナンス」の解釈が時代と共に変化しており、解釈の変化についてEPA側から公式な発表がないということであった。しかし、最近になって、このような主張は法的根拠はないとして退けられるようになっている。例えば、2002年1月には司法省が、EPAが1970〜1990年代前半に積極的な法的措置を取らなかったからといって「定期的なメンテナンス」を定めた条項は有効でないと判断するのは間違っているという見解を表している。さらに、インディアナ州地方裁判所が下した2003年2月の判決においても、EPAの「定期的なメンテナンス」の解釈は正当なもので、大気浄化法の精神に基づいており、これまでのEPA公式発表文書(24) などから見て、「正当な告知(fair notice)」が行なわれなかったとはいえないと結論付けている(25) 。
3. ブッシュ政権におけるNSR規則改正 3-1 NSR規制改正に動き出すブッシュ政権 電気事業者や石油精製業者といったエネルギー業界とのパイプが太いブッシュ氏が政権についたことで、NSRを巡る状況は一転した。工業施設を有する事業者は、大気汚染防止装置を設置しなければならないというNSR規制は、民間における設備投資を冷えさせ、発電や送電、製造などといった企業活動が非効率なままとなっていると声高に主張するようになった。特に、クリントン政権時代に提訴されたエネルギー関連企業が、ブッシュ政権に対して訴訟を取り下げるよう活発なロビイングを行なっている。 ブッシュ政権におけるエネルギー政策を話し合うために召集された、国家エネルギー政策審議グループ(Vice Presidentユs National Energy Policy Development Group)は、2001年5月の報告書「Report of the National Energy Policy Development Group」の中で、@EPAは、NSR規制がエネルギー効率性を向上させるための民間投資にもたらすインパクトをまとめ、大統領に報告すること、そして、A司法省は、NSRに関連する訴訟が大気浄化法の精神に基づいたものかを調査し、訴訟の見直しを行なうことを提言している。 NSR規制見直しが国家エネルギー計画の中で取り上げられた理由には、当時のEPA長官のクリスティ・ホイットマン氏(Christie Whitman)が民間企業からの提訴取り下げの請願に反発したという背景があるといわれている。EPAと司法省は報告書の中の提言に従って調査を開始し、司法省は「EPAによる提訴は合法で、訴訟は継続する」との報告を2002年1月に行なっている(26) 。 3-2 EPAによるNSR改正案まとめ EPAでは、まず、エネルギー省、内務省、OMB、全米経済審議会(National Economic Council)、環境質に関する大統領府審議会(White House Council on Environmental Quality)の代表者も含めた省庁横断型チームを立ち上げ、調査を行なうこととなった。 調査の結果、まず2001年6月に「バックグラウンド・ペーパー(Background Paper)」(27) を発表し、@電気と石油精製分野への投資、Aエネルギー効率、B環境保護の3点におけるデータを公開した。「バックグラウンド・ペーパー」発表の目的は、同報告書内にまとめられたデータに対する一般からの意見や追加データなどを幅広く募集するだけに留まっており、政策提言などは行なわれていない。「バックグランド・ペーパー」が公表された後、EPAはさらに、全米各地での一般公聴会、民間企業・環境保護団体・州政府など100機関以上とのミーティングなどを行ない、NSR規制が民間にもたらすインパクト、またNSR規制改正による影響について分析・調査を継続している(28) 。 この分析のまとめとして、EPAは2002年6月に「NSR大統領報告書(New Source Review: Report to the President)」(29) を発表した。この報告書の中でEPAは以下の様な報告を行なっている(30) 。
このように、NSRが環境保護において果たした役割は認めるものの、NSRがあることで汚染防止やエネルギー効率を向上させるための設備投資が行なわれず、逆に環境保護の歩みを止めているとEPAでは分析している。このため、同報告書の中では、NSRプログラムの規則改正が提言されており、例えとして、「定期的メンテナンス」の定義を明確にすることで、汚染防止やエネルギー効率向上につながる改修を促進することができるとしている(31) 。 EPAは「NSR大統領報告書」と同時に、NSR改正案をまとめた「NSR改正案(New Source Review: Recommendations)」(32) も発表しており、この中では、NSR改正の焦点となる以下の7点について詳しく説明を行なっている(33) 。
3-3 ブッシュ政権下で最初の「最終規則」発表:2002年11〜12月 EPAは、クリントン政権下の1996年に発表されたNSR規制改正案にさらに手を加え、大気汚染物質排出量や健康被害、汚染防止装置設置コストなどの経済コストも勘案した上で、2002年11月22日に「最終規則(Final Rule)」を発表し、同年12月31日には「Federal Register」において正式に政府文書として記録することとなった。EPAは、最終規則が実施されることで、NSR許可プロセスが簡素化され、民間企業による設備投資を促進し、さらには、環境保護にもつながると述べている。また、最終規則発表と同時に、さらなるNSR規則改正案も発表しており、一般からの意見を募集している。 最終規則 2002年12月に正式に発表された最終規則では、以下の様な点が変更となっている(34) 。
今回発表された最終規則は2003年3月3日より有効となるが、前述したように多くの州政府はそれぞれの「州実行プラン」に基づいてNSRプログラムを運用していることから、EPAが発表した新しい最終規則を盛り込む形でプランの変更を行なう必要がある。そのため、そのような州政府については、最終規則を州実行プランに盛り込むまでの最終期限を2006年1月2日とすることになっている。(35) 議会においては、民主党を中心に、最終規定の有効日を3月3日以降にずらそうとする動きもあったが、上院における投票で46対50と反対が上回ったため、有効日の変更には至らなかった。その代わり議会では、全米科学アカデミー(National Academy of Sciences)に対してNSR調査を行なうための予算2,150万ドルを2003年度予算として割り当てることを決定している。この全米科学アカデミー調査ではNSR新規則がもたらす、@汚染物質排出量の増減、A人体への影響、B最終規則実施後に設置された汚染防止装置や防止技術、CNSRが効果的に実施されているかの現状、Dその他関連データ、の5点についてまとめ、中間報告が2004年3月3日までに議会に提出される予定となっている(36) 。 NSR規則改正案 最終規則と同時に発表された規則改正案は、「定期的なメンテナンス、修理、取替え(routine maintenance, repair and replacement)」免除に関するものである。この改正案では、以下の2つの条件のどちらかに当てはまるのであれば、自動的に「定期的なメンテナンス、修理、取替え」としてNSRから免除されることになるとしている。(37)
この規則改正案については、一般からの意見を募った上で、2003年12月までには最終規則を決定したいという意向がEPA側から発表されている。 3-4 第1回最終規定発表に反対する州政府 これに対して、北東部の9州は、2002年12月31日にEPAに対して最終規則の無効確認提訴を行なっている。この9州とは、コネティカット州、メーン州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ロードアイランド州とバーモント州で、2003年1月になってペンシルベニア州も原告側に加わっている。 (38) これら10州は、今回の規則緩和は「大気浄化法を改悪するものである」(39) と主張し、「クリーンユニット」に対してNSR免除を与えることや、排出量テストと限界値排出量計算方法の改正、PALsの導入は、大気浄化法の精神から大きく外れるものであるため、議会での審議・可決が必要で、議会における承認を得ない限りこの最終規定は無効であると主張している(40) 。 2003年2月には、同じ北東部10州が共同でホイットマンEPA長官(当時)に対して、NSR最終規則の再考を促す請願書(45ページに渡るもの)を提出している。この請願書では、@最終規則で導入されたPALsや、排出増加を決定する計算手法は、1996年と1998年の規則案から大きく外れたものである、A最終規則の考慮の際には、健康や環境被害についての情報を十分に勘案していない、B偏った、また、非公開の情報に基づいてNSR最終規則が作成されている、C最終規則を全ての州政府が適用することを義務付けたことは、州政府の自治に大きな制限を課し、さらに、「大気浄化に関しては、州政府は連邦政府が課す規則よりも厳しい規則を課してもよい」とする大気浄化法の精神に反する、D最終規則はあいまいで、確実に実行することができない、という5点が主張されている。(41) 一方、EPA支持を明言する州も多く、バージニア州を筆頭に、インディアナ州、カンザス州、ネブラスカ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州が、最終規則を認める姿勢を示している(42) 。 3-5 第1回最終規則策定に伴うプロセスへの疑問とその後の議論 NSR規制改正に伴う審議プロセスが適切に行なわれたかどうかに関して、ジョセフ・リーバーマン上院議員(Joseph Lieberman、コネティカット州選出民主党)がGAOに調査を依頼していたが、この調査結果が2003年8月27日にGAOより発表されている。このGAO報告書では、NSR規則改正を考慮する際、EPAは民間企業からの意見を重視しすぎたという結論が出されている。 元々、EPAでは、経済への影響や環境被害を計算するための元データは入手しづらいという問題があることは認知していた。例えば、NSR規制があるために、実現に至らなかった工業施設改修計画の数や投資予定額などのデータを集めることは不可能であったため、そのようなデータを試算するために、EPAでは主に、民間企業による「裏づけのとれない話」に頼るしかないと判断したとGAOは報告している。EPAに寄せられた民間企業の話を総合すると、NSRは事業者にとって大きな障害となっており、汚染制御装置の設置コストが高くなったり、NSR許可を取るための時間が長すぎるため、改修計画を断念するなど、運転効率性を高めるために必要な改修が行なわれない原因となっているということであった。 EPAがこのような真偽が不明な話のみに基づいた分析を行なっており、包括的な統計データ収集などの努力を行なっていないことから、EPAの分析結果は信頼できないものとGAOでは結論付けている。また、EPAは、改修を行なった施設が、改修後の大気汚染物質排出量を増加させないという前提の下で、運転効率やエネルギー効率を高めるための改修活動は大気汚染物質の減少につながると分析しているが、工業施設が大気汚染物質排出量を増加させるか減少させるかは、需要の拡大・縮小など様々な外部要因によって左右されており、このような前提を元に推測を行なうことはできないとしている。 さらに、EPAはNSRによって最も影響を受ける業種(電力事業者、化学製品製造業者、土木製品製造業者、石油精製業者の4業種)からの意見はよく聞いているものの、環境団体や州・地方政府の環境担当者からの意見はあまり参考にしていないことがGAOの調査によって判明している。(43) 第1回最終規則の一部を再考する旨を発表 2003年7月25日、EPAは2002年12月に最終決定されたNSR最終規則の一部を再考することを発表した。これによると、以下のような分野に限定して、一般からの意見を募集することとしている。(44)
これらについては、一般からの意見を考慮した上で、最終規則を決定していくとしており、現在のところ、確定した日程は発表されていない。 第2回最終規則発表:2003年8月 2003年8月27日、EPAは、NSRにおける「装置取替え(equipment replacement)」の定義について最終規則(46) を発表している。この最終規則は元々、2002年12月に提案されていた規則修正案に基づいたもので、EPAでは、120日間の一般意見提出日、全米5ヶ所での一般公聴会を設けて、15万通の意見書と一般公聴会で発言した450人の意見を考慮した後に、最終規則として発表することを決定している。今回の規則修正は、前年12月に提案されていた、「定期的なメンテナンス、修理、取替え(routine maintenance, repair and replacement)」のうち、装置取替え(replacement)のみについて定めたものである(47) 。 ブッシュ政権側は、この規制改正は同政権の環境政策の中で最も重要な決断であるとし、発電所、精油所や工業施設の効率性を高め、汚染減少のための技術への投資が促進されるとしている(48) 。規則改正を発表したのはEPA長官臨時代理のマリアン・ホリンコ氏(Marianne L. Horinko)で、「どのような設備取替えがNSR規則免除になるかを明確にすることで、業者が確信をもてるような規則」に生まれ変わり、「より安全で効率の高い業務が行なわれるようになって、発電施設に限って言えば、より信頼性が高く、より環境にもやさしく、さらには、より価格の安いエネルギーを提供できるような操業が可能になる」と述べている。(49) この最終規則によると、以下の様な「装置取替え」はNSR規則から免除され、大気汚染防止装置を設置しなくてもよいとされる。(50)
また、事業者は、主要装置全体の取替え費用を推算するために、取替えコスト、インフレ率調整済みの投資額、プロセスユニット全体の取替えに対して保険がかけられている場合、装置の保険補償相当額、その他会計学で一般的に認められている計算手法といった手法を利用することができる。(52) ブッシュ政権側はもともと、プロセスユニット価値の50%までの投資を「定期的な取替え」として認める予定としていたが(53) 、この数字は最終的に20%にまで下げられている。電力会社の業界団体、電子信頼性調整委員会(Electric Reliability Coordinating Council)のディレクターであるスコット・シーガル氏(Scott Segal)は、20%という数字がどこから出てきたのかは分からないが、「不合理ではない(not unreasonable)数字である」と述べている(54) 。 しかし、1度の改修につきプロセスユニット価値の20%以下の投資を機器取替えに充当することができることから、プロセスユニット価値20%にあたる投資を毎年行なえば、大気汚染物質排出削減を行なう努力をしなくとも、5年でプロセスユニット価値100%に値するだけの投資、つまり施設の完全入れ替えを行なうことが出来ることが指摘されている(55) 。これに対する批判は環境保護団体などから出ており、天然資源保護会議(Natural Resources Defense Council)の大気浄化プログラム担当ジョン・ウォーク氏(John Walke)は、このような規則は「こっけいな会計上のからくり」で、大気汚染物質排出量を増やしながら工業施設改修を行なうことができるようになると酷評している(56) 。 第2回最終規則を取り巻く賛否両論 賛成派の先頭に立つのは、NSR規則に遵守しなければならない工業施設を有する民間企業である。前述の電子信頼性調整委員会のシーガル氏は、規則改正は、発電所の効率性や、発電・配電システムの信頼性を高め、先日ニューヨーク州を中心に起こったような大停電を防止する役割を果たすであろうという談を発表している(57) 。 また、1999年より、EPAはNSRに違反する工業施設に対し提訴・罰金徴収を行なってきたが、より条件の緩やかな最終規則が発表されたことで、NSR違反で提訴されることが少なくなると民間側では期待している。「EPAから訴えられるのではという懸念がなくなり、よりコストの安く信頼性の高い電力を提供し、同時に大気汚染も少なくできる」と、電力業界団体のエディソン・エレクトリック・インスティチュート(Edison Electric Institute)のトーマス・クーン氏(Thomas Kuhn)は述べている(58) 。 しかし、NSR規則改正によって実際に民間企業が大気汚染物質排出量削減を達成するかについてはEPA内部でも疑問が残っている。例えば、メリーランド州ボルティモア市の地方有力紙であるボルティモア・サン紙(The Baltimore Sun)が、独自にEPA大気・汚染物質担当局長補のジェフリー・ホルムステッド氏(Jeffrey Holmstead)にインタビューしたところ、同氏は、規則改正によって、各民間施設が大気汚染物質排出量削減のための設備入れ替えを進んで行なうようになると考えているものの、「排出量が、微妙ながら増加する施設も出てくると思われる」と述べている(59) 。 一方で、環境保護団体からは「大気浄化法」を骨抜きにする動きであり、政権は民間からの排気量増加を認めているという批判の声が上がっている。天然資源保護会議のウォーク氏は、EPAの規則改正が大気汚染物排出量を増やさないと政権側は発表しているが、国民をだましているだけとしている。ウォーク氏によると、規定改正は、法律の「大きな抜け穴」を企業に提供するものであり、工業施設がNSR関連訴訟を逃れることが容易になるという(60) 。つまり、ほとんどの工業施設では定められた排出量よりも少ない排出量で操業を行なっているが、装置入れ替えにより効率性や操業率が上がれば、排出される大気汚染物質も上限ぎりぎりになり、排出量が増加する工業施設が増えるというのが環境保護団体の予測である(61) 。より多くの窒素酸化物や二酸化硫黄が空気中に排出されれば、光化学スモッグや酸性雨、喘息、慢性気管支炎、肺炎などを悪化させる恐れがあると環境保護団体では指摘している(62) 。 民主党からは、2000年の大統領選においてブッシュ側に資金提供を行なった電力企業への恩返しであるという批判が出ている。また、2004年の大統領選出馬を公言しているジョン・エドワーズ上院議員(John Edwards、ノースカロライナ州選出民主党)は、EPAによる新規則発表を、「本来であれば国民のために環境を守るべき機関が、環境を見殺しにするとは恥知らずで法外なことである」と発言している(63) 。 ニューヨーク州など、第1回最終規則の合法性を問うために連邦政府を告訴している州政府においても、今回の最終規制に対する目は厳しい。ニューヨーク州検察局のエリオット・スピッツァー検事総長(Eliot Spitzer)はこの規則改正を、大気浄化法の意図を「大きく逸脱した違法な」冒涜行為であり、今回の最終規制についても、裁判所に提訴する構えを見せている。しかし、一方で、メリーランド州が提訴に加わるかどうかは不確かな状況となっている。メリーランド州知事のロバート・アーリック知事(Robert Ehrlich, Jr.、共和党)は8月27日現在で、提訴するかどうかの態度を明確にするのを留保しており、広報担当のヘンリー・ファウェル氏(Henry Fawell)によると、州知事はEPAの規則変更に対して「始めは戸惑い」、メリーランド州環境を脅かすものであると考えていたが、「知事として一定の責任があるため、全ての状況をしっかり把握した上で行動を取る」ことにしたと発表している(64) 。これは、メリーランド州前知事のパリス・グレンデニング氏(Parris N. Glendening、民主党)が、昨年秋のEPA規則改正に対し、高々に非難し、他の州と共に連邦政府を提訴したのと対照的な動きとなっている。 最終規則発表のタイミングについては様々な憶測がある。例えば、大統領は最近、ユタ州知事のマイケル・リービット氏(Michael Leavitt)を次期EPA長官として指名しているが、正式に長官に就任していないため、今回の最終規則は長官臨時代理が承認・署名を行なっており、規則改正に関する責任はリービット氏にないことになる。リービット氏がEPA長官として承認されるためには、上院における質問会を経なければならないが、最終規則についての責任を負わないことで、上院質問会から出る批判を減らすという意図もみられるという。(65) (ワシントン・コア資料を基に作成)
出典:GAO, August 2003. Page 8-9; Edison Electric Institute, "New Source Review: A History." July 2001などを参考にワシントンコア作成
2003年4月、全米行政学アカデミー(National Academy of Public Administration:NAPA)は、NSRの現状をまとめた報告書、「A Breath of Fresh Air: Reviving the New Source Review Program」(66) を発表した。NAPAは、1984年に連邦・州政府に対して政策提言を行なう独立調査機関として議会が設立したもので、今回のNSR調査は議会の調査依頼を受けて行なわれたものである(67) 。 NAPA報告書ではまず、信頼できるデータがないため、NSR規則のどの条件がエネルギー効率向上を妨げているのか、また、NSR規則があるために民間企業がエネルギー効率を高めるための改修を行なわない原因は何なのかを分析することは不可能であったという注記がある。しかし、この報告書では、2年間に渡る独自調査で以下の様な事実関係が判明したとしている。
このためNAPAは、報告のまとめとして以下の様な提言を行なっている(68) 。
注釈:
Top Page |