|
|
(2003/5/15) NEDOワシントン事務所 2000年にクリントン前政権によって策定された国家ナノテクノロジー・イニシアティブ (National Nanotechnology Initiative = NNI) は、ブッシュ現政権となってからも国家の重要な科学技術優先事項の一つとして、着実な予算増額を享受している。しかしながら、法的な権限認可を欠くNNIは、連邦政府の財政事情によっては予算変動の影響を受けやすい為、議会は米国のナノテクノロジー研究開発 (R&D) 投資へのコミットメントを成文化する法案を可決させる必要があるという声が聞かれるようになった。 2002年9月17日には、NNI法制化を目的とする「21世紀ナノテクノロジー研究開発法案 (The 21st Century Nanotechnology Research and Development Act)」が、当時の上院商業科学運輸委員会科学技術宇宙担当小委員長であったRon Wyden上院議員 (民主党、オレゴン州)(注1)を始めとする超党派メンバーによって提出され、同9月19日には上院商業科学運輸委員会において早々と全会一致で可決されることとなった。同法案は、上院本会議に上程されたものの、第107議会第2会期 (2002年1月〜12月) の終了までに上院本会議の承認を取りつけることが出来ず、残念ながら時間切れで自然消滅(注2)している。
A. 第108議会の上院におけるナノテクノロジー法案の審議状況 Ron Wyden上院議員は2003年1月16日、共和党のGeorge Allen上院議員 (バージニア州) と共同で、「21世紀ナノテクノロジー研究開発法案 (21st Century Nanotechnology Research and Development Act:上院第189号議案)」を超党派で上院に再提出し、同議案は上院商業科学運輸委員会に付託された。同委員会のJohn McCain委員長 (共和党、アリゾナ州) は、ファストトラック (fast track) で審議を進める予定であり、商業科学運輸委員会でのマークアップも数週間以内に行なわれる可能性があると発言している。 材料・製造技術・ナノエレクトロニクス・医療・環境・エネルギー・化学・バイオテクノロジー・農業・情報技術・国家安全保障といった分野にブレークスルーをもたらすような、長期的R&Dを支援する省庁間プログラムの認可を目的とする「21世紀ナノテクノロジー研究開発法案」の概要は下記の通り: 1. 大統領は、国家ナノテクノロジー研究プログラム (National Nanotechnology Research Program:以下、「プログラム」と呼ぶ) を策定する。「プログラム」は、当該省庁・委員会・国家調整事務局 (National Coordination Office)を通して、@連邦政府ナノテクノロジーR&Dやその他活動の目標、優先事項、グランドチャレンジ、及び、査定基準を設定し;A目標達成のため、ナノテクノロジー及び関連科学分野の連邦政府R&D計画に投資を行ない;B各省庁のナノテクノロジー研究開発及びその他活動の省庁間調整を行なう。「プログラム」は、参加省庁を通じて、下記の分野における連邦研究計画の立案・予算配分・管理を行なう:
2. 国家科学技術会議 (National Science and Technology Council = NSTC) は、@ナノテクノロジーの商業化推進のため、情報サービス実用化委員会 (Information Services and Applications Council) を設置し;A参加省庁の予算要求について、行政予算管理局 (Office of Management and Budget = OMB)と調整を行ない;B参加省庁の現行研究計画が見落している研究分野を確認し;C「プログラム」に関する年次報告書を大統領予算教書提出時に連邦議会に提出する。 3. 大統領は、最高20名のメンバー構成で国家ナノテクノロジー諮問委員会 (National Nanotechnology Advisory Panel) を創設する。諮問委員会は、大統領とNSTCに助言を行なうほか、年次報告書を毎年9月30日までに大統領、NSTC、「プログラム」参加省庁の長官、および上院商業科学運輸委員会と下院科学委員会に提出する。大統領はまた、NSTCと国家ナノテクノロジー諮問委員会を技術面・管理面で日常的に支援する機関として、国家ナノテクノロジー調整事務局 (National Nanotechnology Coordination Office) を創設する。 4. 全米科学アカデミーの全米研究委員会 (National Research Council) は、3年毎に「プログラム」の査定評価を実施する。 5. NSF総裁は同法令成立後18ヶ月以内に、ナノテクノロジー関連社会・倫理・教育・労働問題センターの活動概要を盛り込んだ年次報告書を、大統領、NSTC、上院商業科学運輸委員会と下院科学委員会へ提出する。 6. 2004年度予算として、総額約6億7,781万ドルを認可する。参加各省庁への予算配分は下記の通り: (単位:千ドル)
B. 第108議会の下院における審議状況 下院科学委員長のSherwood Boehlert委員長(共和党、ニューヨーク州)は2003年2月13日、上院に提出された「21世紀ナノテクノロジー研究開発法案」に対応する下院の姉妹法案として、超党派の共同スポンサー23名の署名を連ねた「2003年ナノテクノロジー研究開発法案 (Nano Technology Research and Development Act of 2003:下院第766号議案)」を下院に提出した。Boehlert委員長は、下院科学委員会における同法案の審議を早々に議事日程に組み込み、3月19日には第1回公聴会を、4月9日には第2回目の公聴会を開催して、産官学を代表する多様な証言者達から、同法案に対する見解を聴聞している。 第2回公聴会の終了時にBoehlert委員長が約束した下院科学委員会でのマークアップは、5月1日に開催された。マークアップ会合では、下院第766号議案に対する多数の修正法案が一件づつ審議され、採決にかけられたが、提案された修正法案の大半は、同議案の文言を明確にするものであったため、その殆どが苦もなく承認されている。マークアップで論議の的となったのは、NNI年間予算の5%をナノテクノロジーの社会的・倫理的影響に関する研究へ配分するというBrad Sherman下院議員 (民主党、カリフォルニア州) 提案の修正案と、省庁間諮問委員会に柔軟な権限を与えるために委員会の構成を変更するというBoehlert委員長提案の修正案で、Boehlert修正法案は党派ラインでかろうじて可決されたが、Sherman修正法案の方は却下されている。 下院科学委員会では5月1日に修正法案の審議を終えた後、「2003年ナノテクノロジー研究開発法案」を可決、同法案は下院本会議へと上程された。下院本会議では5月7日に「2003年ナノテクノロジー研究開発法案 (Nanotechnology 注3 Research and Development Act of 2003)」を405対19という圧倒的多数で承認している。下院が可決したナノテクノロジー法案の概要は下記の通り: 1. 連邦政府のナノテクノロジー研究・開発・実証・教育・技術移転・実用化の活動を促進するため、大統領は、「国家ナノテクノロジー研究開発プログラム (National Nanotechnology Research and Development Program:以下、「プログラム」と呼ぶ) を実行する。「プログラム」では、下記の具体的活動を行なう:
2. 大統領は、ナノテクノロジーR&Dに関する省庁間委員会を創設する。同委員会のメンバーは、科学技術政策局 (Office of Science and Technology Policy = OSTP)・NSF・DOE・NASA・NIST・EPA・OMB、及び、大統領が選定する省庁の代表者で構成され、委員長は、メンバーの中からOSTP局長によって選定される。省庁間委員会では、@「プログラム」の目標と優先事項を策定し;A具体的な技術目標や最優先事項を盛り込んだ研究開発項目を設定し;B本法令成立6ヶ月以内に@で策定された目標と優先事項を達成する戦略計画とAで設定された研究開発項目の活動指針を策定し;Cバランスの取れたナノテクノロジー研究ポートフォリオが保たれ、参加各省庁および各研究開発項目に必要な予算が確実に計上されるよう調整した「プログラム」の省庁間予算を提案し;D中小企業革新研究(Small Business Innovation Research = SBIR)や中小企業技術移転研究(Small Business Technology Transfer Research = SBTTR)といった連邦政府プログラムを活用する計画を策定し;E上記@〜Dの実行において、ナノテクノロジー諮問委員会の答申、及び、学界・州政府・産業界等の見解や提言を検討する。 3. 省庁間委員会の委員長は、大統領予算教書の議会提出時に、@現会計年度の「プログラム」参加省庁別、および、研究開発項目別の「プログラム」予算;A次期会計年度の「プログラム」参加省庁別、および、研究開発項目別の「プログラム」予算案;B「プログラム」の目標と優先事項の達成に向けての進捗状況の分析;C「プログラム」がナノテクノロジー諮問委員会の提言をどこまで取り入れたかの分析;D連邦省庁による上記2のDの活用計画実行状況の査定、を盛り込んだ年次報告書を下院科学委員会と上院商業科学運輸委員会に提出する。 4. 大統領は、学界・研究所・産業界といった連邦政府以外の代表者から成る、ナノテクノロジー諮問委員会を創設する。諮問委員会では、@ナノテクノロジー科学・工学の動向と発展;A「プログラム」実施の進捗状況;B「プログラム」改訂の必要性;C「プログラム」の研究開発項目間のバランス;D省庁間委員会が策定した研究開発項目・優先事項・技術目標はナノテクノロジー分野での米国リーダーシップ維持に有効か;E「プログラム」の管理・調整・実施状況;F社会的・倫理的懸念への対応が十分かどうか、を査定する。諮問委員会はまた、2会計年度毎に大統領と下院科学委員会および上院商業科学運輸委員会へ、上記の査定結果と「プログラム」改善方法の提言を盛り込んだ報告書を提出する。 5. 大統領は、省庁間委員会と諮問委員会を技術面・管理面で支援する機関として、国家ナノテクノロジー調整事務局 (National Nanotechnology Coordination Office) を創設する。 6. 「プログラム」の予算として、向こう3年間で総額23億6,150万ドルを認可する。 (単位:千ドル)
7. 国家ナノテクノロジー研究開発プログラムを外部レビューに付すため、省庁間委員会の委員長は本法令成立6ヶ月以内に、全米科学アカデミー (National Academy of Sciences) と「プログラム」の定期的レビュー実施に関する契約を結ぶ。
8. NSF総裁・DOE長官・NASA局長・NIST所長・EPA長官は各々、科学的・技術的トレーニングが必要条件となる連邦政府の職に学生をリクルートするため、大学院生対象の科学技術奨学金プログラム (Science and Technology Graduate Scholarship Program) を設立する。同プログラムの骨子は下記の通り:
C. 第108議会におけるナノテクノロジー法案の今後 下院本会議が5月7日に「2003年ナノテクノロジー研究開発法案 (下院第766号議案)」を可決したことにより、ナノテクノロジー法案の討議舞台は上院へと移った。下院科学委員会が同議案を下院本会議に上程した5月1日には、上院商業科学運輸委員会が「21世紀ナノテクノロジー研究開発法案 (上院第189号議案)」を審議する第1回公聴会を開催し、産官学を代表する証人者達からNNIの進捗状況等について意見を聴聞している。今後の審議日程は未だ明らかにされていないものの、上院商業科学運輸委員会のJohn McCain委員長がナノテクノロジー法案の審議を速やかに行なう意向を表明しているため、同委員会におけるマークアップはそれほど先のことではないと期待されている。上院商業科学運輸委員会、そして、上院本会議が「21世紀ナノテクノロジー研究開発法案」を承認すると、上院と下院の法案の違いを擦り合わせるため、上下両院協議会が開催される。上下両院協議会の合意したナノテクノロジー妥協法案が上下両院の本会議で承認されると、大統領の署名を得て、法律として成立することになる。ナノテクノロジー法案には超党派の幅広い支持があるため、今会期中に成立する可能性は十分にあると見られている。
注1:第107議会では上院は民主党の指導下にあったが、2002年11月の中間選挙で共和党が勝利を得た結果、第108議会第1会期の上院指導権は共和党に移り、上院商業科学運輸委員会科学技術宇宙担当小委員会の委員長職も、民主党のWyden上院議員から共和党のSam Brownback上院議員 (カンザス州) へと移っている。 注2:立法権限が議会に付されている米国では、全ての法案は議員によって議会へ提出される。法案は各会期 (1月〜12月) 中に審議・折衝され、上下両院で可決されると、大統領の署名をもって法律として成立するが、提出された会期期間中に可決されなかった場合には、法案は時間切れで自然消滅することになる。従って、次期会期では、法案は振り出しに戻って一からやり直しとなる。 注3:下院科学委員会に提出された際には "Nano Technology" であったが、同委員会で可決され下院本会議に提出された際には、"Nanotechnology" に変わっている。 Top Page |