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(2003/1/10) 2003年1月10日 ナノテクノロジー(以下ナノテク)は、ITやマテリアル、バイオと並んで21世紀に技術内容・市場規模共に大きく飛躍する分野であると考えられている。 NSFのDr. ロコ氏の予測によると、ナノテクは、今後10〜15年の間に毎年の製品売上高が1兆ドル程度にまで拡大する(2002年2月5日のNNI会議における発表)という。分野別に見ると、マテリアル分野3,400億ドル、エレクトロニクス分野3,000億ドル、医薬品1,800億ドル、化学1,000億ドル、航空宇宙700億ドル、ツール250億ドルとなっている。政府によるナノテクへの投資は世界的に見ても2000年以降急激に増加しており、米国連邦政府は全世界ナノテク投資額のうち27%を占めている。
出典:Nancy Vorona氏(Virginia's Center for Innovative Technology)資料 ナノテクは様々な技術分野・アプリケーションへの応用が可能と考えられており、ナノテク研究や商業化を進めるための試みが米国各地で行なわれるようになっている。 特に、バイオクラスターに倣って、ナノテクについても地域クラスター作りを州政府や大学、研究所が中心となって進めようとする動きが各地で見られる。そこで、ナノテククラスターの形成に力を入れている、バージニア州、ペンシルベニア州、ニューメキシコ州、そしてテキサス州におけるナノテククラスター育成のためのイニシアティブについて取り上げることとする。
1.バージニア州における取り組み (1) 現状 バージニア州はニューエコノミー最盛期時代には、AOL社(現在はAOLタイムワーナー社)やワールドコム社(元MCI社)などの急成長を遂げたIT関連企業をお膝元に抱える州として注目されていた。しかし、ITバブルの崩壊によってこれら企業の業績が悪化し、他方、ゲノム研究の進展などによって隣のメリーランド州のバイオ企業の注目度が上昇してきたこともあり、バージニア州には何らかの展望を開いてゆきたいという思いが出てきた。 このため、マーク・ワグナー州知事の指揮の元、バージニア州はバイオやナノテクといった最先端技術への支援を産官学一丸となって行なうことで州内の産業の振興、さらには税収増加を図ろうとしている。 ナノテクにおけるバージニア州の強みは、既にナノテク研究開発のインフラや研究施設が整っているということである。例えば、バージニア工科大学(Virginia Tech:Virginia Polytechnic Institute and State University)は、NEMS(Nano ElectroMechanical Structures)組立に関する研究で有名であるし、バージニア州立大学(Virginia Commonwealth University)では民間企業と協力して、ナノスケール・バイオエレクトロニクスに力を入れている。また、バージニア大学(University of Virginia)では、NSFからのグラントを受けてナノテク研究センターを2ヶ所設立することが決定している。 特にバージニア州が得意とするのが、構造ナノマテリアル、ナノスケール・バイオテクノロジー、シミュレーションや大学機関による研究者・学生教育とトレーニングである。元々IT企業が多いことからバイオインフォマティクスも盛んで、さらに、国防総省研究所やNASA関連施設がバージニア州内にあることから、安全保障や航空宇宙・造船に関連する分野におけるナノテクノロジー(センサー、マテリアル、オプトエレクトロニクスなど)も強いと言われている。 (2) INanoVA(Initiative for Nanotechnology in Virginia)の設立 バージニア州におけるナノテク産官学研究の中心となるのが、INanoVA(Initiative for Nanotechnology in Virginia)である。INanoVAは、州政府、州立大学、連邦政府ラボ、民間企業によるコンソーシウムで、ナノテク研究・教育、技術移転や商業化の促進を行なうことをミッションとしている。INanoVAの設立資金は、バージニア州CIT(Center for Innovative Technology)が提供した10万ドルと、パートナー機関・企業のマッチング資金である。
バージニア州内に「ナノテク・コミュニティー」を設立することを目的とするINanoVAの活動には以下のようなものが挙げられる。
2.ペンシルベニア州における取り組み (1)現状 ペンシルベニア州は、前州知事トム・リッジ(Tom Ridge、現在は国家安全保障長官)の元でバイオ振興策を始めとする技術開発支援策が取られたことで有名であり、バイオ分野に対する投資額は累計16億ドルに上っている。 また、ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)が他大学に先駆けて1994年にナノファブリケーション施設(Nanofabrication Facility)を設立するなど、ナノテク研究の土壌が元々あったペンシルベニア州では、ナノテクをバイオに続く有望な先端技術分野として捉えており、州政府からの投資も2000年10月のナノテクノロジー・インスティチュート(NTI:Nanotechnology Institute)の立ち上げ資金などを始めとして数多い。 (2) ナノテクノロジー・インスティチュート(NTI:Nanotechnology Institute) NTIのシード資金1,050万ドルは、ペンシルベニア技術投資局(PTIA:Pennsylvania Technology Investment Authority)(注1) から3年間のグラントという形で授与されている。その他に、ベン・フランクリン技術パートナーズ(Ben Franklin Technology Partners of Southeastern Pennsylvania)から205万ドル(うち、シード資金100万ドル、人件費70万ドル、プログラム実施35万ドル)、また、国防総省からも175万ドル(5年間)の資金提供を受けている。 NTIの目標は、ペンシルベニア州を中心として大西洋岸中西部地域を「ナノテク地域(Nanotech Region)」として確立することである。NTIでは特に、バイオセンサー、ドラッグデリバリー、細胞組織工学を中心的な研究分野に据えている。活動の中心は、大学・研究機関におけるナノテク基礎・応用研究への支援であり、大学研究の結果や知識を民間企業に対して技術移転し、ナノテク研究の商業化をはかることにある。しかし、このような研究支援だけではなく、高校生にナノテクに興味を持ってもらうような活動の実施(High School Outreach)、コミュニティーカレッジにおいてナノテクの准学士号(Associate Program)プログラム設置を通じて、ナノテク研究を行なう人材の開発も進めている。 NTIの特徴は、@政府、経済開発組織、企業、研究機関、大学による産学官共同体制であること、Aペンシルベニア州、ニュージャージー州、デラウェア州、メリーランド州といった複数の州によるイニシアティブで、日本(AIST)やイタリア、ドイツ、英国といった海外との国際協力も促進していること、B研究の結果や発見を商業化、技術移転し、ナノテクノロジーだけではなくライフサイエンスにおけるアプリケーションに変換したり新しい知識の創出につなげることを促進していることの3つである。 NTIの中心機関は、ベン・フランクリン技術パートナーズ、ドレクセル大学(Drexel University)、ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)、そしてペンシルベニア州政府となっている。
3.ニューメキシコ州における取り組み (1) New Mexico Nanoscience Allianceの設立 エネルギー省所管の国立研究所を抱えるニューメキシコ州でも、ナノテク地域振興に向けた取り組みが行なわれている。この取り組みとは、2001年8月に設立が発表された「ニューメキシコ・ナノサイエンス・アライアンス(New Mexico Nanoscience Alliance)」で、サンディア国立研究所(Sandia National Laboratories)、ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory)、ニューメキシコ大学(University of New Mexico)の3機関が中心となるものである。 サンディアは、ナノケミストリー、ナノメカニクス、ナノオプティクスなどを得意としており、一方、ロスアラモスでは、理論、モデリング、ナノファイバー開発、ナノパウダー、量子コンピューティングなどの分野の研究が行なわれている。 サンディア国立研究所のシニアマネジャーであるテリー・マイケルスク氏(Terry Michalske)によると、このアライアンスは情報共有のためのフォーラムであり、協力関係促進の場として利用されることとなっている。そのため、セミナー開催やニューズレター送付など、研究者同士を結ぶ努力がされることになる。ニューメキシコ・ナノサイエンス・アライアンスに参加できるのは、ナノサイエンスに興味を持つメキシコ州内の機関であれば制限はない。 また、アライアンスの活動の一環として、ニューメキシコ大学にナノテク専門の特別教授職(joint professorship)を設け、サンディア、ロスアラモス両研究所から研究者を招聘することが将来的に計画されている。両研究所では現在、どのような形で研究者を大学に派遣するかを検討中しており、一方ニューメキシコ大学においても、ナノサイエンスやマテリアル分野における大学院プログラムの開設を予定している。 さらに、サンディアとロスアラモス国立研究所は、アライアンスの中核センターとなる統合ナノテクノロジーセンター(CINT:Center for Integrated Nanotechnologies)の設計・建築費用として7,580万ドルをエネルギー省科学局より2002年8月に受給している。エネルギー省ではCINTのようなナノテクに特化したセンター(Nanoscale Science Research Centers)を国内に合計5ヶ所設立する予定としており、既に2001年度に5億ドル、2002年度に6億2,000万ドルがセンター投資として予算割り当てが行なわれている。 ニューメキシコ州をナノテククラスターとして育て上げようとする試みに賛同しているのは、ニューメキシコ州選出のピート・ドムニチ上院議員(Pete Domenici、共和党)などの政界リーダーも多く、ドムニチ議員はCINT建設決定にあたり、「ロスアラモスとサンディア両研究所はニューメキシコ州をナノテク分野のリーダーとするための重要なステップを踏み出した」とし、「ニューメキシコ州北部は次のシリコンバレーとなる可能性が非常に高い」と述べている。また、同じく同州選出のジェフ・ビンガマン上院議員(Jeff Bingaman、民主党)も「ナノテクが、成長とイノベーションのエンジンとなることであろう。エネルギー省がこれからもCINTに対する支援を行なうように配慮させたい」としている。 CINTでは、以下のような運営方針を掲げることとしている。
4.テキサス州における取り組み テキサス州においてもナノテク研究が進んでおり、州内の大学のうち4校(ライス大学、テキサス大学ダラス校、アーリントン校、オースティン校)がナノテクに特化した研究センターを設けている一方、テキサスA&M大学(Texas A&M University)では、NASAからのコントラクトを受けて航空宇宙分野に利用できる次世代ナノテクマテリアルの開発を行なっている。現在テキサス州内にはナノテク研究を利用した製品やサービスを扱う企業が18社あるが、そのうちの2社はテキサス州内の研究環境の高さを理由に2001年にテキサス州内に移転してきたといわれている。 ナノテク研究のための戦略的パートナーシップ(SPRING: Strategic Partnership for Research in Nanotechnology)はナノテク研究を行なう大学が中心となって2002年4月に創設されたもので、ナノテクノロジー分野におけるリーダー地域としての地盤固めを行なうことを目指している。このパートナーシップに参加しているのは、テキサス大学オースティン校、テキサス大学ダラス校、テキサス大学アーリントン校、そしてライス大学(Rice University)の4校である。このパートナーシップでは、連邦・州政府が行なう支援プログラムへの応募促進、ワークショップ、NSF、NASA、陸海空軍、エネルギー省などのナノテク支援を行なう連邦省庁担当者への訪問調整などを行なう予定となっている。 (参考)
University Wire, "U. New Mexico teams up with area labs to commit to nanoscience research," August 13, 2001.
注1:PTIAは1999年に当時の州知事リッジによって、最先端のナレッジベース企業に対する投資を柔軟に行なうために設立された機関である。PTIAでは特に、Eビジネス企業への支援や、産学協同ベンチャーに対するシード支援を重視している。 Top Page |
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