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(2002/8/15) … 連邦政府各省庁のプログラムと省庁間連携プログラム… ワシントン事務所 前回のレポートでは、2001年度予算によって確立された米国の国家ナノテクノロジー・イニシアティブ (National Nanotechnology Initiative = NNI) の概要を報告した。クリントン前政権策定のNNIを基本的に踏襲しているブッシュ政権ではあるが、イニシアティブの優先事項と研究対象分野には若干の変化が生じている。特に、2001年9月11日の同時多発テロ事件以後、国土安全や軍事関連の技術に応用可能なナノテクノロジー研究が重視されるようになったことは言うまでもない。ブッシュ大統領は、@ 効率的なナノ生産を可能にする研究;A バイオ兵器・化学兵器・核兵器・爆発物の検出・防止に関する解決策の研究;B 計測基準と計測機器の開発という3項目の優先事項を確認して、グランド・チャレンジ(注1)に追加している。この報告書では、NNI参加機関12省庁が現在実施しているプロジェクト、および、2省庁以上が関心を持つナノテクノロジー研究開発 (R&D) 分野での研究を効率的に進めるために形成される省庁間連携プログラムについて概説する。 各省庁の国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)プログラム 1. 全米科学財団 (NSF) NNIのリード機関であるNSFの2003年度予算は、ブッシュ政権によって2002年度比2,200万ドル増の2億2,100万ドルに引き上げられている。NSFの関心分野は、@学際的研究と教育の支援;Aナノスケール科学工学センター (Nanoscale Science and Engineering Center = NSEC) の設立とセンターへの資金援助;B労働者訓練であり、NNIの5つの支援分野全てに投資を行なっている。この5分野に対するNSFの2003年度予算要求の内訳は下記の通り: (単位:100万ドル)
NSFは米国政府で最大のNNI予算を持つ機関であるが、研究支援・研究実施メカニズムの中心は、ナノスケール学際研究チーム (Nanoscale Interdisciplinary Research Teams = NIRT)、および、ナノスケール探査研究 (Nanoscale Exploratory Research = NER) という2種類のグラントで、比較的シンプルなシステムとなっている。NIRTは、専門分野の異なる3名以上の大学研究者から成る小グループを対象としたグラントで、学際的なナノスケール研究アプローチに重点を置いている。NIRTでは連邦政府研究所や民間企業の研究者とのパートナーシップを奨励し、これをプロジェクトの選考要素に加えている。一方、大学の個人研究者や研究グループを対象とするNERは、高リスクで革新的なナノスケール科学工学研究に重点をあてるグラントであり、プロジェクトの教育的価値を選考基準の一つにしている。NIRTおよびNERへのプロジェクト提案は、上記支援分野の内の、「基礎研究」の6テーマまたは「ナノスケールの科学的技術進歩が社会や教育にもたらす意味」のいずれかに該当していなければならない。 NSFではNIRTとNERの他に、ナノテクノロジー大学教育 (Nanotechnology Undergraduate Education = NUE) とナノスケール科学工学センター (Nanosclale Science & Engineering Center = NSEC)というグラントも実施している。NUEは、学士 (undergraduate) レベルのナノテクノロジー課程を設置する大学や大学の学部、または、学士レベルのナノテクノロジー研究に従事する学生に助成金を供与するプログラムで、NSECの方はナノスケール工学R&D用の機器を備えたユーザー施設の創設を目的とするプログラムである。NSECの2003年度公募では、ナノスケール製造過程分野でプロジェクトを募集し、2件を採択する予定となっている。NSECの助成額は年間100万〜400万ドルで、支援期間は5年間である。 2. 国防省 国防省の2003年度ナノテクノロジーR&D予算は2億100万ドル。前年度比12%の増額となっている。国防省の主要なNNI実施部局は、陸海空軍、防衛先端研究計画局 (Defense Advanced Research Projects Agency = DARPA)、および、科学技術担当国防次官代理室 (Deputy Under Secretary of Defense = DUSD)で、各部局のナノテクノロジー投資は下記の通り: (単位:100万ドル)
国防省のナノテクノロジーR&Dは2001年度には基礎研究の比重が圧倒的に大きかったものの、多発テロ事件や炭素菌事件の影響とブッシュ政権の優先事項を反映し、応用研究・開発向けの予算が激増している。国防省の重点分野は、@ バーチャル・リアリティー (実質的現実) を利用した効率的なトレーニングや無人戦闘車等の研究開発を目的とするナノエレクトロニクス・オプトエレクトロニクス・マグネティックス;A 価格の手頃な高性能材料や多機能を備えたスマート材料等を研究開発するナノ材料;B 化学物質や生物物質の検出・破壊装置、および、兵士の健康モニタリングや予防処置等を研究するバイオナノテクノロジーの3分野である。 陸海空の各軍では、自らの研究所や研究室で内部研究を行なうほか、ナノエレクトロニクス、ナノバイオテクノロジー、ナノ材料R&Dといった広範な分野のプロジェクト支援で大学研究チームにグラントを授与することもある。グラント受給者は、陸海空軍の研究所とのパートナーシップを提案した大学研究チームであることが多い。一方、国防省で最大のNNI予算を持つDARPAでは、バイオ分子マイクロシステム (bio-molecular microsystem) や分子エレクトロニクス、量子情報科学 (quantum information science)、量子デバイスやナノ材料といった多様な分野のナノテクノロジーR&Dを支援するため、民間企業や大学研究者、および、非営利団体のプロジェクトにコントラクトやグラントを供与している。陸海空の各軍やDARPAはまた、従業員500名未満の小企業のプロジェクトを支援するため、小企業技術革新研究 (Small Business Innovation Research = SBIR) 計画や小企業技術移転(Small Business Technology Transfer = STTR)計画も活用している。 国防省に特有の興味深いナノテクノロジー計画に、DUSDの下で実施されている @国家防衛科学工学大学院生 (National Defense Science and Engineering Graduate = NDSEG) フェローシップ計画と Aナノテクノロジーに関する防衛大学研究イニシアティブ (Defense University Research Initiative on Nanotechnology = DURINT) がある。NDSEGフェローシップ計画(注2)は、国家軍事に重要な科学工学分野に携わる科学者やエンジニアの数と質を引き上げることを目的とするもので、対象は米国籍(注3)の大学院生に限られている。フェローシップの受給期間は3年間で、2002年度に選定された各大学院生には総額で約7万ドルが授与される予定である。一方、DURINTは、大学のナノテクノロジーに関する基礎科学工学研究能力や教育能力を向上させることを目的とするプログラムで、大学チームや大学コンソーシアムが対象となる。DURINTは2001年度に、ナノテクノロジー研究設備整備プログラムで17件のプロジェクトに総額725万ドルのグラントを授与し、ナノテクノロジー研究プログラムで16件に総額875万ドルを授与している。 3. エネルギー省 (DOE) DOEの2003年度NNI予算は1億3,930万ドルで、4,800万ドルという大幅増額を受けている。国防省とは異なり、基礎エネルギー科学部 (Office of Basic Energy Science = BES) の下に一括されているDOEのNNIプログラムは、ナノレベルの材料合成や加工、物質特性 (properties) のナノレベルでの変化や自己組織形成を研究する縮合物質物理学 (condensed matter physics)、および、物質のナノレベルの特性が触媒変形で果たす役割を研究する触媒分野という3分野における基礎研究に重点をおいている。BESのグラント計画では、個人研究者、大学や国立研究所の数名の研究者から成る小グループ、および、大学研究センターや国立研究所またはユーザー施設といった大グループからの提案も受け付けている。BESグラントは、個人研究者と大学または個人研究者と国立研究所の連携、および、2ヶ所以上の研究所間の連携を奨励しているが、個人研究者が参加申請できるプロジェクトは1件に制限している。 BESではまた、ナノスケール科学研究センター (Nanoscale Science Research Center = NSRC) の建設も支援している。NSRCは、ナノ材料の合成・加工・操作・分析を行なうユーザー施設で、2003年度予算要求には3,500万ドルの予算が計上されている。DOEでは2003年度予算で、オークリッジ国立研究所のNSRC建設を開始するほか、設計段階にあるローレンス・バークレー国立研究所とサンディア/ロスアラモス国立研究所のNSRCへの支援を継続する予定である。 4. 米航空宇宙局 (NASA) NASAの2003年度NNI予算要求額は約5,100万ドルで、その内の2,200万ドルがナノサイエンス基礎研究に、残りの2,900万ドルがナノテクノロジー科学応用に投資される予定である。NASAのナノサイエンス基礎研究と応用研究は主として、生物・物理研究局 (Office of Biological and Physical Research) と航空宇宙技術局 (Office of Aerospace Technology = OAT) によって実施されている。ナノサイエンス基礎研究は、バイオ分子システム研究とバイオテクノロジー・構造生物学 (Structural Biology) を軸とするプログラムであり、ナノテクノロジー科学応用は、@ 材料と構造組織;A ナノエレクトニクスと演算;Bセンサーとスペースクラフト部品という3分野におけるナノテクノロジーの進展を統合することを目的としたプログラムである。全国各地に散らばるNASA研究所がナノテクノロジーR&Dのかなりの部分を担当しているものの、ナノテクノロジー・バイオテクノロジー・情報技術の融合を重視するNASAにとっては、他の政府省庁や大学、民間企業との連携が非常に重要なものとなる。このため、2003年度には、大学の参加を奨励するため、@ 航空宇宙用材料;A エレクトロニクスと演算;B バイオナノテクノロジー融合 (fusion) に関する大学研究工学技術所 (University Research, Engineering and Technology Institute) を3ヶ所創設する予定である。競争公募で選定されるセンターへの支援期間は5年間で、助成額は年間300万ドル。最高5年間の延長オプションも設けられている。 5. 商務省国立標準規格技術研究所 (NIST) ナノスケール計測方法・装置開発のリード機関であるNISTでは、ナノテクノロジー研究やナノテクノロジー製品に対して、標準やツールを提供している。2003年度NNI予算要求額は2002年度より600万ドル多い4,380万ドルで、量子演算、ナノエレクトロニクス、ナノマグネティックス、ナノ摩擦学 (Nanotribology)、原子自己組織形成 (Autonomous Atom Assembly) という分野のプロジェクトを支援する予定である。NISTは、ナノテクノロジーの専門知識や特殊装置を有する大学や産業界そして他の政府省庁と多数の戦略同盟や連携関係を結んではいるものの、実際の研究活動の大半は、電子電気工学研究所、製造技術工学研究所、物理学研究所、物質科学工学研究所といった自らの研究所で行なっている。2003年度NNI予算の約半分は現行活動の推進継続に充てられる予定で、NIST各研究所への予算配分額は競争プロセスによって決定されることになる。また、使用が一回限りの複雑で高額な施設の設置費を回避しつつ、イニシアティブの目標達成に欠かせない特殊な研究を行なうため、NNI増加額の半分 (約300万ドル) をナノテクノロジーR&Dの専門設備が調った外部組織に供与する計画である。 6. 国立衛生研究所 (NIH) NIHでは、疾病の発見・予防に役立つ新材料やツール、革新的な治療方法、実験室での研究や臨床研究の改善で特に有望と見られるナノテクノロジー研究に支援を行なっている。NIHのNNI向け2003年度予算は4,320万ドルで、240万ドルの微増を受けたにとどまっている。しかしながら、ナノ科学工学技術のポテンシャルに対する認識が高まるにつれ、NIH予算本体からのNNI投資が拡大するものと期待されている。ナノテクノロジーR&Dを支援するNIHの研究所や研究センターが、自らの使命に適った一連のプロジェクトを独自に管理しているものの、NIH全体のNNI活動は生物工学コンソーシアム (Bioengineering Consortium = BECON) によって調整されている。 NIHのNNI研究支援メカニズムの主体は、各研究所や研究センターで実施するグラントである。プロジェクト公募への申請者の殆どは個人研究者や数名の研究者からなる小グループであるが、NIHの研究室が申請することも稀にある。先頃発表されたグラント要綱では、@バイオ医療用にナノ材料を操作・加工する新型研究ツール;A非生物科学分野でのナノテクノロジーの進歩を活用した、疾病の発見・診断・予防方法;B単一分子から成る検出・操作デバイスを対象分野としている。NIHではまた、新技術や新アプローチをバイオ医療に統合促進していく為に必要な学際的研究環境の中で、ポスドクから専門家まで、異なるレベルの科学者やエンジニアを訓練する支援プログラムも行なっている。BEACONの努力によって昨年から開始されたMentored Quantitative Research Career Development Awardプログラムがこの良い例である。 7. 司法省、運輸省、財務省、環境保護庁 (EPA)、農務省、国務省 2001年1月にNNI参加省庁に追加された司法省・運輸省・財務省・EPA・農務省・国務省のNNI予算は小額であり、その活動も現時点では限られたものである。この6省庁の2003年度ナノテクノロジーR&D予算要求額は総計1,100万ドルに過ぎない。中でも、予算が僅か10万ドルの財務省と予算ゼロの国務省に関しては、NNIにおける各々の役割が現時点では明確でない。 司法省 (2003年度予算140万ドル) は国立司法研究所を通じて、@ナノテクノロジーR&Dを犯罪捜査のDNA分析に応用するDNA研究開発プログラム (100万ドル) とA着用可能な化学・生物有毒物質検出装置を開発する化学生物防護計画 (40万ドル) を支援している。 運輸省 (200万ドル) のナノテクノロジーR&Dは、国家輸送システムの安全性確保という同省の最重要ミッションを反映し、ナノテクノロジーを利用した爆発物・化学兵器・生物兵器探知センサー技術の研究開発を行なっている。現在の省庁間連携プロジェクトへの参加は限られたものであるが、運輸省では近い将来、省庁間プロジェクトの関与を強化する予定である。 EPAの2003年度NNI予算は500万ドルと小額ではあるものの、研究グラントやSBIR助成を通じて、クリーン製造技術研究および環境汚染探知・修復技術といった多彩なナノテク研究プログラムに従事している。更に、ナノテクノロジーが環境に及ぼす影響を研究するグラントにも着手している。 250万ドルのNNI予算を持つ農務省では、農繊維 (agricultural fiber) を利用した織物用新材料の開発やDNA酵素反応等の基礎研究を行なうため、内部研究と外部研究の双方を行なっている。内部研究は、農業研究事業局の国立研究所によって実施され、外部研究の方は、州政府研究教育普及共同事業局 (Cooperative State Research, Education, and Extension Service = CSREES) とランドグラント大学(注4)のパートナーシップによって行なわれている。CSREESはまた、バイオ産業を志す若手研究者の養成事業にも資金を提供している。
国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)の省庁間連携プログラム NNIでは、ナノテクノロジーR&Dを効率的に推進するため、省庁間協力を奨励している。ナノスケール科学工学技術小委員会 (Subcommittee on Nanoscale Science Engineering and Technology = NSET) が、事務局の全米ナノテクノロジー調整部 (National Nanotechnology Coordination Office = NNCO)(注5)の協力を得て、省庁間連携の調整にあたる。NSETとNNCOは、複数のNNI実施省庁に共通し、かつ、相補的な有望研究分野の確認で努力をしているほか、数種の異なる連携形態を確立させている。連携プログラムには、1省があるナノテクノロジー分野の一部を研究し、他省が同分野の別部分を研究するという相互補足的性格のプログラムもあれば、ラブ・オン・チップ (lab-on-a-chip) プロジェクトや研究施設整備等の大型プロジェクトのようにコスト分担型のプログラムもある。こうしたプログラム調整と連携は、@ 優良センターやネットワーク構築への支援額調整;A 研究活動の重複回避;B 省庁間での情報シェア等に有効である。NNI実施省庁 (国務省を除く) 間の連携プロジェクトの例は下記の通り。
出典:全米研究委員会の「Endless Frontiers: A Review of the National Nanotechnology Initiative」
注1:「国家ナノテクノロジー・イニシアティブ:先導策と実施計画 (National Nanotechnology Initiative: The Initiative and its Implementation Plan)」でホワイトハウス国家科学技術会議 (National Science and Technology Council = NSTC) のナノスケール科学工学技術小委員会 (Subcommittee on Nanoscale Science Engineering and Technology = NSET) が確認・報告した9項目のグラント・チャレンジについては、NEDO海外レポート第887号を参照されたい。 注2:2001年には285名がフェローシップを受賞、その内の45名がナノテクノロジー専攻であった。 注3:米国永住権の所持者は対象とならない。 注4:農科・工科などの設置を条件に連邦政府から州に国用地を賦与され、その費用で設立された大学。 注5:産官学がナノテクノロジー技術やプログラムの情報を交換する際のコンタクト・ポイントでもある。 Top Page |
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